離婚前提から 始まる恋
「花音、小さいころにお父さんが肩車をして散歩に連れて行ってくれたのを覚えていない?」
「ああ・・・うん、覚えている」
家に近くの河原から見える夕日を父さんの肩から見た記憶がある。

「お母さんのお父さん、花音にとってはおじいさまにあたる人も政治家でね、いつも忙しくて家にいたことのない人だった。私は父と散歩に行った記憶も食卓を囲んだ記憶もないの」
「そう」
なんだかかわいそう。

私が生まれる前に亡くなっていて会ったことはないけれど、豪快で派手好きな人だったと聞いたことがある。

「当時の私は、男の人はみんな家庭を顧みなくて、結婚して妻となれば女はみな我慢を強いられるものと勝手な先入観があったのよ。今思えばばかげているけれど、当時は本気でそう思っていたの」
「それはきっと、おじいさまのせいなのよね」

破天荒なおじいさまを見て育ったから、普通の家庭ってものが母さんにはわからなくなってしまったってことだろう。

「ええ、きっとそう。でも、お父さんは違ったわ。私に何でも話をして、意見を聞いてくれて、私の意思を尊重してくれた。それにね」
そこまで言って、一旦言葉が止まった。
「何?」
その先が気になって、私は母の顔を見た。

「お見合いの時、2人でホテルのお庭を散歩したの。そこで、父さんと手を繋いで歩いたのよ」
「ふーん」
それで?と聞きかけて、母さんの頬が赤くなっていることに気がついた。
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