離婚前提から 始まる恋
「留守の間に何かあれば、すぐに連絡するんだぞ」
「はい」
忙しいのがわかっているから簡単には連絡できないけれど、何かあればもちろん勇人に知らせるつもり。

「もし俺に連絡がつかないときは、里佳子に電話してくれればいいから」
「う、うん」
と返事はしたものの、自分でも不機嫌な顔になったのがわかる。

秘書であれば出張に同行するのも当然のこと。
私だって尊人さんの外出に同行することもある。
でも・・・

「この出張から帰ってきたら、近場の温泉にでも2人で出かけようか?」
「え?」

突然、勇人が提案してきた内容に驚いた。
普段から仕事が忙しくて週末でさえ一緒にいる時間がないのに、急に温泉旅行なんて何かあるのではと勘ぐってしまう。

「どうしたの急に?」
「最近ずっと忙しくて、2人で話す時間がなかっただろ?」
「それはそうだけれど・・・」

2人で話さなければいけないことと言えば、今後のこと。
もっとはっきり言えば『離婚の時期』。
それ以外にないように思う。

「どうした、嫌なのか?」
「そんなことないよ」

どうせいつかははっきりしないといけないし、どんなに伸ばしても結果は変わらない。
であれば、きちんと話をした方がいいのだと思う。

「行きたいところがあれば考えておいてくれ」
「はい」

勇人と行く温泉はもちろん楽しみだけれど、そこで離婚が決まるとなれば、逃げ出したくもなる。
でも、仕方ない。
それが結婚した時からの約束だから。
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