離婚前提から 始まる恋
その夜、私は一睡もできなかった。
もう一度電話をしようかとスマホを握りしめては見たけれど、勇気がないまま朝を迎えた。
その間も色々考えた。
どんなに愛情がなくても、私はまだ勇人の妻。
怒って勇人に詰め寄るくらいのことはしてもいいのかもしれない。
詰め寄るまではいかなくても、泣きながら感情をぶつけることのできるかわいげのある女だったら、勇人も少しは打ち解けてくれたのかもしれない。
でも、できないんだよねえ。

私の両親は私と同じお見合い結婚。
お父さんが29歳で初めて選挙に出た年に、22歳のお母さんと結婚した。
お母さんの実家も地方の議員だったこともあり親同士が決めた結婚で、大学を卒業したばかりだったお母さんはそのまま家庭に入り、以後30年間専業主婦として家庭を切り盛りし、子供を育て、父のサポートに徹している。
いつも明るくとっても楽しそうにしているお母さんはそれはそれで幸せそうではあるけれど、2人は夫婦と言うよりも主従関係に見える。
だからかな、私は夫婦ってものがよくわからない。

ピコン。
母さんからのメッセージ。
『勇人さんに聞いてくれた?8月13日の夜に納涼祭りの予定だからできるだけ早めの時間に帰ってきてちょうだい』

ったく、準備に私をあてにしているんだわ。

はあー、困った。
さすがにこの状況で勇人に電話をかける勇気がないし、仕方ないメッセージで送っておこう。
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