離婚前提から 始まる恋
「あれで本当にお医者さんになれるのかしら?」
拓馬君が去った後、調理の準備をしながら杏がつぶやいた。

「でも、拓馬君なら子供たちに好かれそうじゃない?」
特に小児科医なら優しい人の方がいいと思う。

「そりゃあ子供の扱いはうまいと思うわよ。でも、自分の子供や家族を診てもらうと思うとどう?少し不安じゃない?」

確かに、大切な家族の命を預けるとなれば心配は尽きないし、もう少しベテランの先生をとお願いするかもしれない。
でも、誰だって最初から完璧ではない。

「経験を積んでそのうちに落ち着きや風格だって出てくるものだと思うわ」
「そうかもしれないわね。でもそんな風に花音が優しいから、拓馬君に懐かれるのよ」
「懐かれるって、そんなあ・・・・」
人聞きが悪いなあ。

「気を付けた方がいいわよ。少なくとも拓馬君は花音が気になっていると思うから」
「もう杏ったら、やめて」
これでも私は一応人妻なわけで、そういうことは軽々しく言わないでほしい。

きっと私の押しが弱いから話しやすくて声をかけてくれるんだろうけれど、私の気持ち的には弟みたいな感じで、男性として意識したこともない。
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