プラトニック ラブ

思い知らされた人気度



彼が仕事に打ち込んでいる姿を生で見るのは今回が初めてだった。


窓ガラス1枚を挟んでラジオの生放送を見守る女性達は、写真や動画を収める為にスマホをかざしたり、興奮した様子でキャアキャアと騒ぎ立てている。



遠目からそんな様子を見ているうちに、身近な人から別世界で暮らす人へと、心に距離を感じた。



「これが今のあの子達。目が回るほど忙しくて毎日クタクタだけど、仕事が好きだから今まで弱音は吐かなかった。だからこそ、これ以上余計な事に時間を費やせないの」

「余計な事って…。もしかして…私の事ですか……?」



紗南は直球勝負に出る冴木にビクビクしながら問い尋ねた。



「えぇ。貴方もセイも時間がもったいないわ」



と言い、無表情のまま再びコーヒーを口にする。



「………っ!」

「それに、貴方も世間の餌食になって被害を被る前に自分から身を引きなさい。その方が、貴方だけじゃなくセイの為にもなるから。貴方は一般人の恋人でも作って、普通の学生らしい恋愛した方がきっと幸せになる。このまま幸せになんてなれない」


「……でも、幸せかどうかを決めるのは自分自身ですから」



紗南はキリッとした上目遣いできっぱり反論した。



確かに冴木さんの言う通り、セイくんは大変な時期に差し掛かっているけど⋯。

自分の人生は自分で決めたい。
空白の6年間を知らない冴木さんに決めてもらいたくない。
別れたくない。



紗南の心の中は土砂降り状態になった。



しかし、冴木は諦めが悪い紗南に次の切り札を出す。

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