プラトニック ラブ

大事なもの




思い返してみれば、一番最初に大事な物を捨てたのは、小学5年生の時。


開業医の両親の元で生まれ育った一人っ子の私は、病院の後継になる事が決まった。
同時に歌手という夢を捨てざるを得なくなってしまった。



本当は夢を諦めたくなかった。



抑揚をつけるのが下手でも。
譜面通りに上手に歌えなくても。
歌は、私の生きがいそのものだったから。




でも、自分には兄妹がいないし、病院の後を継いでくれるような親戚もいない。
それに、父親一代で病院を潰してしまうのは気が引けるし、早かれ遅かれ人の助けになりたいとも思っている。


だから、中学を目前にして歌手という夢を諦めて、病院の後継になろうと決意した。






でも、いま改めて考えてみたら、歌を辞めた時に手放したのは将来の夢だけじゃなくて、大好きな彼との未来も手放してしまっていた。

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