プラトニック ラブ

自然と流れた涙



『ファンに向けて、最後のメッセージをお願いします』

「俺達はアメリカでみっちりダンスを学んできます。そして、2年後には皆様の前で最高のパフォーマンスが披露出来るように頑張ってきますので、引き続き応援宜しくお願いします」



セイは視聴者に向けて固い決意を伝えると、ジュンと共に深々と頭を下げた。
2人はフラッシュ音と共に、一斉に光の衣に包まれる。




今回の記者会見を最後に、17歳の彼の最新映像は見納めとなる。
次に心境を語る機会があるのなら帰国後に。


寂しいと言う言葉じゃ片付けられない。
胸にぽっかり穴が空いて、間から風がビュービュー吹き荒れてる気分だ。





母親は食事に手をつけずにテレビに釘付けている娘の異変に気付き、顔を傾けて心配そうに問い尋ねた。



「紗南。どうして泣いているの?具合でも悪い?」



紗南は指摘されるまで、涙で頬を湿らせている事に気付かなかった。
焦って指の腹で涙を拭う。
寂しさは拍車がかかり歯止めが利かない。




両親はトップアイドルのセイが、娘の恋人だった事を知らない。
しかし、部屋に貼ってある2枚のポスターを見て、恐らくファンだった事くらいは知ってるだろう。


だから、正直に答えた。



「大丈夫。ただ、KGKの生歌が2年間聴けなくなると思ったら寂しくなって」



これは本音。
だから、両親も素直に信じている。






彼は午後の便で日本を発つ。

だから、カーテン越しに歌ってくれた思い出の曲の【For you】は、もう二度と聴く事が出来ない。

< 209 / 272 >

この作品をシェア

pagetop