国の再建のために捨てられたもと皇太子妃ですが強く生きています
プロローグ
「結婚はなかったことにしてくれ」

「え?」

新婚初夜の翌朝、2つ歳上の夫となった人から冷ややかに言い放たれた一言に、オリヴィアは背筋がすーっと寒くなるのを感じた。

「ノックス公爵が失脚した。キミとはノックス公爵家という後ろ盾があったから結婚したようなものだったのに、初夜にこんなことになるとは不運としか言いようがないな」

冷たい視線がまだ一糸まとわぬ姿の自分につきささる。

その碧く深い瞳が昨夜は情熱的に見えたのはウソだったというのか。

「で、殿下?」

そうつぶやいて自分の声が震えていることに気づいた。

「今すぐ荷物をまとめここから出ていくんだ。いいか。俺は昨晩ここには来ていない。仕事が立て込んでいて初夜を過ごせなかった」

そういうことにしろということか。
昨日の夜あったことはすべてなかったことにしろと。
ふと気配を感じ、部屋の扉を見ると、皇太子付の侍女が座っていた。

「俺の侍女のコニーだ。信頼できる。こいつに全部まかせておいた。キミは夜が明ける前にコニーの手引きでここをすぐに出ろ」

「で、殿下。ですが…」

「いいからはやくしろ。もう顔を見たくもない」

最後に言い放ったその一言が、オリヴィアの胸にグサリとつきささった。

アドルフ殿下…?

そのサラサラの黒髪ををサラッと揺らし、アドルフはオリヴィアを最後に一瞥するとクルリと身を翻した。
そしてそのままこちらを振り返りもせず一糸まとわぬ姿で寝室から出ていくその引き締まった美しい裸身を絶望感が押し寄せる中茫然と見送るしかなかった。
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