エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 清貴がカフェテリアに入ってきた瞬間、周囲の視線が彼に向けられた。周りが注目するのも無理はない。

 百八十センチを超える長身、日本人離れしたすらりと長い手足。バランスの取れた体躯にほどよくついた筋肉が男らしさを感じさせる。

 少し長めの前髪から覗く形の良い目。笑うと目じりにわずかに皺ができてより魅力を増した。薄めの男らしい唇から奏でられる心地よい声さえも周囲を魅了する。

 見かけだけでも完璧なのに、それに加え世界に名をとどろかせる加美電機株式会社の御曹司となれば周囲の興味を引くのも無理はなかった。

 注目浴びる彼の隣にいる菜摘は、慣れるまで相当の時間を要した。付き合って二年経った今でも、やはり居心地がいいとは言えない。

「うん、大丈夫。パスポートもビザの取得もできた。後は荷造りくらいかな」

「そうか、俺に手伝えることはない?」

「ん? 向こうで勉強教えて欲しいかも……」

 上目づかいで甘えるように言うと、清貴は笑みを浮かべた。

「それは、こっちでもやってるだろ」

「でも、私は語学学校だからまだいいけど、清貴は大学の授業が大変でしょう? だからたまに私に少しだけ時間をくれたらそれでいいの」

 菜摘は清貴の留学に合わせて、彼の大学通う予定の大学に併設されている語学学校に通うことにしていた。

「楽しみだな。まさか菜摘と一緒に留学することになるとは思わなかったな」

「そうだね。私は清貴と付き合うことですら、想像できなかったよ」

 ふたりの出会いは、菜摘が入学したばかりの二年前一年生の五月、カフェテリアの隣にある図書館だった。

 菜摘は自宅にいれば工場の仕事が気になって手伝ってしまうことも多かったため、どうしても集中したいときはこの図書館を利用していた。週の半分くらいは授業のない時間にやってきては課題やレポートをこなしていた。

 かたや清貴が図書館に来るのは、緊急避難が目的だった。清貴はもちろん当時も学内でもものすごく目立つ存在だった。

 彼が受け入れているわけではなかった。日々人の目にさらされて、何をしても注目を浴びる学校生活は過ごしやすいとは言えなかった。遠巻きにみられているだけだならまだ我慢ができた。

 しかし四六時中ついて回られると、さすがに注目を浴びるのが日常茶飯事の清貴でも疲れてしまう。

 そんなとき学内でも比較的人の少ない図書館は、彼にとってオアシスだった。
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