ポケットにあの日をしまって
彼女はひとしきり嗚咽しながら、俺の胸の中で泣いた。

ずっと泣けずに堪えて堪えて我慢して、辛い気持ちを押し込めていたんだろう。

俺は彼女が顔を上げるまで、そっと彼女の背をさすっていた。

「ーー仁科くん、ありがとう。いっぱい泣いたら、少しすっきりした」

「おお」

彼女は涙を拭きながらスッと立ち上がり、はにかんだ。

「小鳥遊、良かったらアドレス交換しない?」

俺は思い切って切り出した。

「わたしも今、言おうと思った」

俺は何だ気が合うじゃないかと照れ笑いしながら、アドレスを交換した。

一緒に病院を出て、彼女の足取りに合わせ駅まで歩いた。

「夕やけ、きれいね」

茜色に染まる空と海を見つめ、彼女が呟いた。

「そうだな」

俺は彼女の見つめる視線の先を見つめながら、夕やけよりも小鳥遊の方がずっと、綺麗だと思った。
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