ポケットにあの日をしまって
でも、もし何かのきっかけで、写真ではなく生の小鳥遊の胸を見た時、目を背けない俺でありたいと心底、思った。

姉はその後、何も言わなかった。

黙って俺の言葉を受け止め、納得しようとしていたのかもしれない。

姉はいつ冷蔵庫から取り出したのか、缶ビールは2本目を飲み始めていた。

「姉ちゃん、肥えても知らないぜ。それ、カロリーもアルコールもOFFじゃない奴」

「ノンアルなんて、そんなの……」

姉は自分のウエストを指で摘まみ、はぁ~と息をついた。

「姉ちゃん、隈のできたナースの顔なんか患者さんたちに見せちゃダメだぜ」

「生意気」

その1ヶ月後。

母は無事に退院し、小鳥遊の放射線治療も半年後に終わった。

小鳥遊とはメールのやり取りをしたり時々、一緒に帰ったりもした。

2年生から小鳥遊とはクラスも分かれ、たまに一緒に帰るくらいだ。

2人の中はというと、とくに進展がないままだ。
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