ポケットにあの日をしまって
ホームルームが始まる数十分前には、談笑が始まっていた。

出席番号順の名前が書かれた机は中学も高校も同じだなと思うと、似たり寄ったりだと感じたのを覚えている。

窓際から2列目、前から3番目の席が空席になっていた。

「小鳥遊。休み?」

誰かが言うと、談笑でざわついていた教室が一瞬、沈黙した。

俺はあの雨の日を思い出していた。

あんな雨に傘も差さず、ずぶ濡れになれば風邪くらい引いていても可笑しくはない。

茉莉(まつり)が入学式に休みなんてね」

女子たちの会話に耳を澄ませ、小鳥遊茉莉が中学は無遅刻無欠席だったことを知った。

小鳥遊茉莉のことは、同じ中学校だったということさえ、そうだったかと思うほど、とくに気にもしていなかった。

名前しか知らない同級生、目立つ存在でもなければ地味でもない。

俺は小鳥遊茉莉を珍しい難読名字というだけで、彼女を知っていた。
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