狂おしいくらいの激情を…貴女に
潜行
宝来家の大きな屋敷━━━━━━

外が明るくなり始めた、早朝。
使用人室が並ぶ中の一つ、絋琉の部屋。

スマホのアラーム音が鳴る前に、絋琉の目がパチッと開く。

アラームを解除し、ベッドを下りた。

そのまま、備え付けのシャワールームへ向かい、シャワーを浴びる。

爽やかな黒髪の短髪。
左耳に光る、ブルーのピアス。
程よい筋肉のついた引き締まった身体。
胸元に彫ってある、胡蝶蘭の刺青。

絋琉の身体に、シャワーの湯が流れていく。

アンティーク調の蛇口を閉め、シャワールームを出た。

スーツに着替え、 身だしなみを整える。
そして眼鏡(伊達)をかけて、部屋を出た。

コツコツ……と廊下に、絋琉の歩く靴音が響く。


「あ、おはようございます!」
一度立ち止まり、丁寧に頭を下げる絋琉。

「あぁ、おはよう。
相変わらず早いな」
絋琉の先輩執事で、使用人を纏めている・大路(おおじ)が、通りかかり微笑んだ。

「あ、はい」
「………」

「大路さん?」
「絋琉、いいか?
身分をわきまえろよ」
優しい大路の目が、鋭く刺さった。

「え?」
「あの方と絋琉とでは、雲泥の身分の差がある。
特に旦那様の前では、悟られないようにしろ」
意味深に言う。

「わかってます」
また丁寧に頭を下げ、去っていった。


「大丈夫ですよ。
俺なんかが“あの方”に想われてるなんてあり得ないですから……!」
ボソッと呟いて、愛しい主人の部屋の前に立った。


俺が触れてはならない。
高貴で、崇高な美しい女神━━━━━


“ノックをせず”ゆっくり、音をたてないようにドアを開けた。
そして真っ暗な室内に、音をたてないように入った。
ペンライトで足元だけ光をあて、ベッドまで歩く。


「………っ…」
ベッドに寝ている姿を見るだけで、身体が熱くなり心臓が凄まじい痛みをし始める。

呼吸の仕方さえ、わからなくなるくらいに━━━━━




「俺の愛しい、青蘭お嬢様……」


あぁ…例え想いが通じなくても、ずっと傍で仕えることができるなら、俺はこの先の人生全て貴女に捧げても惜しくない………
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