可愛がってあげたい、強がりなきみを。 〜国民的イケメン俳優に出会った直後から全身全霊で溺愛されてます〜
「こちらです、どうぞ」
 今度は店員に導かれ、30席ほどの店内を横切り、奥へと進む。
 
 そのとき、ふと、不安になった。
 もし榊原宗介が、何かよからぬことを企んでいたとしたら……
 
 突然、脳裡に週刊誌のセンセーショナルな見出しが駆けめぐった。

「一般女性を喰い物にする○○。もてあそばれてポイ捨てされたわたし」とか。

 まさかね。
 わたしなんか、喰い物にされるほど、色気もないし、若くもない。

 でも、やっぱり、会わずにこのまま回れ右して帰ったほうが無難かも……と思った矢先、個室のドアが開き、背の高い男性が現れた。

 あー、出てきちゃったか。
 ともかく挨拶だけして、できれば部屋に入らずに……あれ、別人?
 いや、本人?
 照明が暗くて判然としない。

 その人は声をかけてきた。
「橋本さん、ですよね?」
 明るい調子の声音。

「は、はい」
 やっぱり別人だ。声が違う。

 ???

 頭のなかがクエスチョン・マークで埋め尽くされる。

 それにしても、よく似ている。

 人目を気にして変装してるのかな。
 俳優だから声質まで変えられるんだろうか。
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