もっと求めて、欲しがって、お嬢様。
「碇、そこは心配しなくていい。どちらにせよ執事じゃなく男としての自分が必要になるときが必ずくる」
そんなものも彼はすでに経験済みらしい。
Sランクでエリートな早瀬さんが本当に俺と同じ悩みを通過していたんだと思うと、どこか安心もしてしまった。
「俺はエマお嬢様の父親に向かって傲慢(ごうまん)ジジイとか言った」
「え…、ええっ…、」
エマお嬢様はあんなにもお転婆なお嬢様だけど、日本で有数とも言われる財閥の娘だ。
日本7大財閥と有名なひとつ、柊財閥の次女。
グループではなく、財閥だ。
それはもうケタ違いの大富豪。
それを傲慢ジジイと言うのは………。
さすがの早瀬さんだとしても、聞いているだけで背筋が凍る思いに襲われる。
「…俺には到底むりそうです」
「まだ分かんねえだろ。俺の場合はそうだったってだけだ」
「…そう、ですけど、」
「それくらいじゃないと、高い場所にある花は簡単に摘めねえんだよ」
やっぱり俺は早瀬さんのようにはなれそうにない。
あなただったら、もっとスムーズに上手にできたんだろうって、何度も何度も思った。
けれど理沙お嬢様は言ってくれたのだ。
俺は俺だと。
比べてどうなるんだと。