もっと求めて、欲しがって、お嬢様。
「あ、あなたがノロノロしてるから…っ」
「……はい、」
それでも回された腕は離されない。
どころか、わざと耳元に寄せるように囁きながら返事をしてくる。
「…すみません、少し苦しかったですよね、」
「ひゃっ、そこで喋らないで…!」
「…申し訳ございません、」
謝るわりには、つづけてくる。
これだったらいつもの空回ってるCランクのほうがずっとずっといい。
「っ、もう自分でやるからいいわ…っ!!」
「…だめです、私にやらせてください」
あなたはこれだけは得意だったはずだ。
蝶々結びが得意なんです!と、自信満々に言っていて。
それなのに今日に限ってうまくできないって…どういうことなの。
「…碇、いい加減にしないと怒るわよ、」
「…じっとしていてください、理沙お嬢様」
「っ…、」
私は今日、初めて。
臆病者で小心者で、泳げなくてヘタレなCランク止まりの残念な専属執事のことを。
かっこいいなんて、一瞬でも思ってしまった自分だけは認めたくない。