六〇三号室の女
うんざりだった。


頼むから、そんな物騒な事件は他所でやってくれと言いたかった。

こっちは毎日毎日、くだらない得意先の連中に頭を下げて、神経をすり減らしているんだ。

疲れきった心身を休めようと寝床に帰ってきたらこの有様だ。

まったくもって勘弁願いたい。

宿泊しているホテルの同じフロアで殺人事件が起こるなんて、ついてないにも程がある。


六〇三号室の前に群がる烏合の衆を横目に、俺は自室へと入った。

この地方には短期出張で何度も訪れているが、こんな酷い事件を耳にするのは初めてのことだ。

まさか滞在するホテルで惨劇が行われようとは想像だにしない。


来期からは別のホテルにするか……


部屋の窓から寂れたネオン街を見下ろしながら、俺は嘆息を漏らした。
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