やり手CEOはお堅い秘書を手放さない


 脚を痛そうにしていたので思わず声をかけたのが始まり。見かけるたびに話しているおかげで、彼女はたまに自宅で作ったというお惣菜をくれたりする。

「おはよう。今日も綺麗だねぇ」

「うふふ。ありがとう。そんなこと言ってくれるの、酒井さんだけよ。これ、実家から送ってきたミカンなんです。とっても甘いんですよ。休憩の時にみなさんで食べてください」

 私は手に持っていた紙袋を差し出した。

「まあ、おいしそう。いつもありがとう。ほんとうに瑠伽ちゃんは優しいねぇ。容姿も性格もいいし、秘書の仕事もできるんだろう? まったく。ここの男どもは見る目がないよ。孫の嫁にほしいくらいなのにねぇ」

 いつも酒井さんは「孫の嫁に」というけれど、実際にどんな人なのかは話してくれない。だから、堅くて男っ気がなさそうな私に対する社交辞令の一つだと思っている。

『真面目なだけで、くそつまんねぇ女。色気もねぇし!』

 学生時代に付き合った恋人から、別れ際に放たれたセリフは少なからずのトラウマとなった。

 でも私に対する男性の評価は、みんなこんなものだ。

 真面目。お堅い。女性らしくない。一人でも生きていける強い女。

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