青い導火線 クセモノたちの狂詩曲
「えーと……」

「森村だよ。寮生の。こっちの片瀬は池崎とクラス一緒だよね」

 片瀬と呼ばれたほうが頷いているのでそうなのだろう。正人はよく覚えていない。

「一緒に座ろうよ。席自由なんだよね」

 空いている座席へ向かいながら、なんとなく舞台の上に目線をやると、

「……」

 目が合った。彼女と。笑った気がした。一瞬。

 すぐに彼女は視線を反らして舞台の袖へと引っ込んでいった。

 狐に睨まれたうさぎの気分。正人の野生の勘が警鐘を鳴らす。

「池崎、美登利さんと知り合い?」

 目ざとくも今のやりとりに気がついたらしい森村が尋ねてくる。

「美登利さん?」

「中川美登利さん。あの髪の長いきれいな人」

「ああ、昨日、少し話しただけ」

 ふーん、と森村はまだ話したそうな様子を見せたが、式の始まりを告げるアナウンスが流れてきたのでそのまま押し黙った。



「池崎、池崎」

 肩をゆすると正人はようやく頭を起こした。生徒会入会式の始まりから部活紹介の最後まで、ずっと寝入っていたのである。

 森村拓己は呆れ気味に正人の肩から手を離した。

「もうみんな移動してるよ」

「んー」
 伸びをしながら辺りを見渡し、正人は「悪い、悪い」とぼそぼそつぶやいた。

「部活の見学どうする?」

「帰ったらダメなのか?」

「終礼やってないからね、まだ。それまで見学の時間なんだよね?」

「そうだな」

 言葉少なに片瀬が応じる。

「おれ、教室で寝てるわ。部活も委員会もやるつもりないし」

 ばいばい、と手を振る正人をやはり呆れて見送るしかない。

「あんな奴のこと、どうして美登利さんが気にしてたんだろう」

「昨日遅刻してきたの、インパクトでかかったからな」

「あー」

 確かに、と拓己はやはり頷くしかない。

「ぼくは中央委員会室に行くけど片瀬はどうする?」





「品良く小粒に揃ってますって感じ? 今年の一年」

「上手いこと言いますね」

 船岡和美の言葉にぷっと吹き出しながら坂野今日子がお茶を差し出す。受け取りながら中川美登利は眉をひそめた。

「品良くまとまりすぎてても考えもの」

「しっかりはみ出してる子がいただろう?」

 こちらもお茶を受け取りながら、生徒会長の一ノ瀬誠がのたもうた。

「ああ。一組の池崎正人」

「あの子ずうーっと居眠りしてたね! あたし放送室から見てて笑っちゃったよ」

 船岡和美がぺしぺしと机を叩いて喜ぶ。
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