プロポーズされたけど、彼から「好き」と言われていないことに気が付いた
「なぁ。お前のこと気に入ってるんだけど。俺と付き合わん?」

 いつもより遅めの昼食をとっていたとき。
 周囲に誰もいなかったからだろう。
 目の前のごつい男がいきなり私に向かってそんなことを言い出した。
 だから今、この男は柄にもなく顔中を真っ赤に染め上げているのか。

 つまり、この場合の『付き合う』は男女交際をしましょうという誘いであると解釈した。
 スープをすくおうとしていた私は顔をあげ、目の前のごつい男――王立第三騎士団団長のアレクをじっと見上げる。

 彼は動物に例えると熊のような男である。チョコレート色の髪は短く切り揃えてあって好感が持てる。たまに、後ろの右側がちょこっとはねているときもある。恐らく寝ぐせだろう。そしてそれは今もあった。
 団長の顔は怖い。それはもう見るからに「騎士団長です」という顔つきをしている。

 彼が道を歩いていると、知らない人は黙って道を譲る。そんな彼に声をかけるのは年端もいかない子供か、人生を悟った年配者たちくらいだと思っている。

 私は食事のために動かしていた手を止め、じっくりと団長の顔を見つめてみた。
 強面のくせにセルリアンブルーのつぶらな瞳。その愛らしい顔がやはり熊のようにも見えてきた。身体も大きく胸板も厚く、そして毛深い。今も騎士服の上着の袖をまくりあげているけれど、その腕にはふさふさと金色の毛がなびいている。

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