バレンタイン


 鏡のように磨かれた人工大理石の床に、ゆっくりとした靴音が響いた。


 息を詰まらせながら、私はその靴音の主の登場を待ち侘びる。


 やがて、うねった障子張りのオブジェの影と、黒光りしている先の尖った革靴の爪先とが重なった。


 私は恐る恐る、その靴の主の顔へと視線を上げる。


 細身のパンツに包まれた長い脚を視線で辿り、引き締まった胸のラインから細い顎へと...。



 ―――――――――― 彼だ。



 間違いない、この人だ。



 私は、ずっとこの人を待っていた。


 ずっと、この人に恋焦がれていた。




 そして、私は一歩前を踏み出す。


 ありったけの勇気を携えて。




















< 2 / 21 >

この作品をシェア

pagetop