【短編】最強総長は隠れ狼姫を惑わしたい。
　今すぐ鳩尾(みぞおち)に一発ずつ拳をお見舞いしたい気分だったけれど頑張って耐えた。

　あたしは普通の女子高生、あたしは普通の女子高生！

　頭の中で何度もそう唱えて我慢していると、目の前から怒りのこもった声が聞こえる。


「……お前ら、誰の許可を得てリィナに話しかけてんの？　大体今は俺と話してただろ？　邪魔すんな」

　あまりにも低い声に驚いて顔を上げると、愛嬌のあったはずの目を鋭く細めて圭が三人を睨んでいた。

「で、でもよ。別にまだ誰かの女になったわけじゃねぇだろ？」
「そ、そうだよ。まだ俺たちにだってチャンスは――」

「は？　俺が最初に話しかけた時点で分かんねぇの？　リィナは俺ら《氷龍(ひりゅう)》の管轄なんだよ」

　……氷龍？

「そんな！　ひでぇよ、俺らだって――」
「おい、やめとけって！　この学校で《氷龍》を敵に回したらまずいって分かってんだろ⁉」

　あたしの肩に手を置いていたやつが何かうったえようとしたけれど、他の二人が止めに入った。
　そのまま彼を引きずるようにして離れて行く。

　それを見送ってから圭に向き直ると、その顔は初めに見た天使に戻っていた。


「……えっと、《氷龍》って？」

　ニコニコ可愛い笑顔に問いかけると、「昼食いながら説明するよ」と返事が来た。
< 8 / 56 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop