乳房星(たらちねぼし)〜再出発版
第14話・いっそセレナーデ

【たまには誉めてあげようよ】

時は、9月1日の朝9時半頃であった。

ところ変わって、イオンモール今治新都市のきらめきコートの南口付近にある駐車場にて…

A班のメンバーたちが乗っているJR四国バスのロゴ入りの特大バスが停まった。

この日は、正午からイオンモール今治新都市のきらめきコート(スポーツオーソリティ付近にある広大なスペース)で開催される『第1回会社経営者東西対抗歌合戦』が開催される予定である。

出場する社長さまたちは、40組80人さまである。

私は、ちいちゃい時に愛媛県で育ったので西軍のメンバーで出場する…

歌順は一番最後の40組目で、大トリを務める予定である。

イベントの模様は、午前11時50分頃〜BSの民放で全国一斉に放送される予定である。

午前10時頃にイオンモールがオープンした。

A班のメンバーたちは、バスを降りたあと館内に入った。

館内の入口で受付を済ませたあと、さざなみコートのインフォメーションコーナーの後ろにある空き店舗へ行った。

ところ変わって、空き店舗に設けられた楽屋にて…

楽屋には、西軍で出場する経営者さまたちがいた。

(ちなみに、東軍で出場者の楽屋は、左ななめ上にある空き店舗にあった)

私は、ディレクターチェアにこしかけてゆっくりと休んでいた。

美澄《みすみ》さんは、大きなかばんの中から水銀の血圧計を取り出した。

ジャンスさんは、私の左腕のまがる部分に聴診器をつけたあとリストバンドを巻きつけた。

その後、美澄《みすみ》さんはリストバンドについているポンプを使ってエアを送った。

(プシュー)

エアがぬけたあと、美澄さんは血圧を見ながらチェックシートに血圧値と脈拍値を記入した。

その中で、ゆかさんがスマホの画面を見ていた。

1時間ほど前に、ゆかさんのギャラクシー(スマホ)にゆみさんからメールが届いた。

ゆみさんから届いたメールを呼んだゆかさんは、しんみりとした表情を浮かべていた。

ディレクターチェアに座っている私は、しんみりとした表情を浮かべているゆかさんに声をかけた。

「ゆみさんからメールが届いたのですね。」
「せや。」

ゆかさんは、しんみりとした表情で私に言うた。

「おとーちゃん…今日…(施設に)ニュウショしたわよ。」
「ニュウショした…」
「広野(三田市)にあるトクロウ(特別養護老人ホーム)よ…金額は、ものすごく高額だった…とゆみが言うてたわよ。」

たつろうさんは、心配げな声でゆかさんに言うた。

「大番頭《おおばんと》はんがニュウショした特別養護老人ホームの利用料は、月にいくらでしょうか?」

ゆかさんは、しんみりとした表情で答えた。

「月額13万〜15万円よ…ニュウショした際に支払った一時金は300万円よ。」
「300万…」
「せや。」
「…という事は…」
「言わなくても分かるけど、施設はゴージャスな建物で設備もゴージャスよ…兵庫県の県病院が運営している特別養護老人ホームだから、医療体制などは充実しているわよ…」
「そうでしたか…」

ゆかさんは、ものすごくつらい声でたつろうさんに言うた。

「せやけど、ひとつだけ心配なことがあるんよ。」
「心配なことがあるって?」
「麗斗《かずと》夫婦が暮らしている家のご近所の大栗《おおぐり》の家のおじいやんが…2ヶ月ほど前に(老健施設を)タイショしたみたいよ。」
「老健施設をタイショしたって、どう言うことでしょうか?」
「原因は3つあるわよ…ひとつは、同じ施設で暮らしていた人たちと気が合わなかった…それが原因で、ボーゲンを吐くことが多くなった…そのまた上に、お世話をしてくださった付添い婦さん(40代前半・人妻さん)に性的欲求を求めるなど…目にあまることばかりしょった…せやけん、タイショしたのよ…」

なんとも言えない…

ディレクターチェアに座っている私は、コーヒーをのみながらそっとつぶやいた。

ゆかさんは、ものすごくつらい声でたつろうさんに言うた。

「大栗《おおぐり》さんの息子さん夫婦は、おとうさまをトクロウにニュウショする際に一時金200万円を払ったのよ…毎月の利用料は…そうね…16万円だったかしら…」
「そんなにかかったのですか?」
「かかるわよ…(サービスの)オプションを加えたら、さらに高額になるわよ。」
「そりゃ大変だ。」
「義妹《いもうと》も、義父《てておや》を北摂能勢郡《のせぐん》にあるトクロウにニュウショさせたのよ…あちらは毎月の利用料が21万円だったわ…」
「一時金は?」
「ざっと500万円よ。」

たつろうさんは、おどろいた声で『500万円!!』と言うた。

ゆかさんは、怒った声で言うた。

「ホンマを言えば、おとーちゃんをトクロウへ預けたくなかったのよ…おねーちゃん(ゆりさん)とゆいとゆまとゆかは強く反対したのよ…せやけど、ゆみが『ほんなら誰がおとーちゃんのメンドーを見るのよ!?』とハンロンしたのよ…せやけん…おとーちゃんをトクロウへ預けた…という事よ…」
「そうだったのですね。」
「こなな話しはもうやめにしよ…」
「そうですね。」

ゆかさんは、看護服姿の麻美さんに声をかけた。

「麻美さん。」
「はい。」
「ヨシタカさんの検温は?」
「あっ、体温計を出してなかった〜」
「早く出しなさい!!」
「すみません…」

ゆかさんにどやされた麻美さんは、渡しのワキにはさんでいるオムロンの電子体温計を大急ぎで取り出した。

その後、美澄さんに私の体温を伝えた。

「34度9分です。」

ゆかさんは、麻美さんにはかり直すようにと言うた。

「アカン、もう一度はかり直してや!!」
「すみませんでした〜」

麻美さんは、もう一度電子体温計を私に渡した。

私は、電子体温計をもう一度右わきにはさんだ。

時は、アメリカ東部時間8月31日の夜8時20分頃であった。

またところ変わって、ニューヨーク・タイムズスクエアにあるニュース専門チャンネルのテレビ局のスタジオにて…

スタジオには、アンナとフランソワさんとマァマがいた。

アンナは、白のフリル付きのブラウスにダークブラックのジャケットパンツのレディーススーツを着用していた。

アンナは、夜9時から生放送されるディベート番組に出演する予定である。

マァマは、やさしい声でアンナに呼びかけた。

「アンナちゃん、大丈夫?」
「うん。」
「この先のことを考えたら、赤ちゃんがほしいよね。」

アンナは、さびしげな声で言うた。

「アンナ…ヨシタカの赤ちゃん産みたい…ヨシタカに会いたい…」

マァマは、アンナの肩をやさしく抱いた。

「よしよし…よしよし…よーくんに会いたいのね…」
「ヨシタカに会いたい…アンナ…アンナ…アンナ…」
「アンナちゃんよしよし…アンナちゃん…かわいい…」

時計のはりが夜8時半をさした。

フランソワさんは『出演者のみなさまがスタジオに入ります。』とマァマに伝えた。

その後、フランソワさんとマァマは楽屋へ戻った。

このあと、アンナは予定通りにテレビ出演のお仕事に取りかかった。
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