乳房星(たらちねぼし)〜再出発版

【悲しい女】

時は、夜9時10分頃であった。

3台の車両は、国道196号線バイパスから今治小松自動車道〜松山高松自動車道〜瀬戸中央自動車道〜山陽自動車道〜中国自動車道を通って専用機が待機している大阪伊丹国際空港へ向かった。

バスの車内にて…

A班のメンバーたちは、リクライニングシートにもたれて身体を休めていた。

私は、夜の風景をながめながらエクスペリア(スマホ)のウォークマンで歌を聴いていた。

イヤホンから研ナオコさんの全曲集に収録されている歌がたくさん流れていた。

『あばよ』『かもめはかもめ』『みにくいあひるの子』『窓ガラス』『夏をあきらめて』『泣かせて』『悲しい女』…

その中で、『悲しい女』を一曲リピートにセットして聴いていた。

歌を聴いている私は、つらかったあの頃に思いをはせた。

時は、1995年5月19日頃であった。

ところ変わって、堺市中心部の寺地町《てらじちょう》にて…

(ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…ゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトンゴトン…キーッ、プシュー)

私は、阪堺電気軌道の路面電車《トラム》に乗って、堺市《このまち》にやって来た。

寺地町《てらじちょう》の電停《えき》で路面電車《トラム》を降りた私は、くまなく歩いてゆかさんを探し回った。

ところ変わって、南海電車高野線《なんかいこうやせん》の堺東駅の前の商店街《アーケード》にある理容院《さんぱつや》にて…

この店の主の奥さまは、中学の時にゆかさんと同じクラスにいた友人であった。

私は、奥さまに『ゆかさんを見かけましたか?』と聞いた。

奥さまは、ゆかさんを見ていないと答えたあと『すまんね…』と私に言うた。

ここには…

ゆかさんは、いてへんかった。

それから私は、2日に渡って堺市から松原市・八尾市・藤井寺市の3つの市《まち》をくまなく歩いてゆかさんを探し回った。

しかし、どこを探してもゆかさんは見つからなかった。

アカン…

ゆかさんを見つけることができなかった…

時は、午後3時半頃であった。

ところ変わって、藤井寺球場の一塁側の内野席の入口付近にある広場にて…

この日は、近鉄バファローズーオリックスブルーウェーブのイブニングゲームが開催される予定であった。

おおぜいの観客たちでにぎわっている広場で、バナナのたたき売りのおっちゃんを見つけた。

私は、大急ぎでおっちゃんのもとへ行った。

この時、店はまだ準備中であった。

私は、店の準備をしているおっちゃんに声をかけた。

「おっちゃん!!」
「おお、何日か前に門司港駅《もじのえき》でおうたコリントじゃないか。」
「オレ…あちらこちらを回っておっちゃんを探していたのだよ!!」
「ワシのことをずっと探しよったんか…」
「せや。」
「コリント、どないしたんぞ?」
「おっちゃん、オレ…この前泉大津の港へ行こうとしたけど、行くことができんかった。」
「なんで行かんかったんぞ?」
「南海本線《でんしゃ》が踏み切り事故でとまったから行くことができんかった!!」
「ほな、代替《バス》に乗ればよかったのに…」
「代替《バス》は乗客《ひと》がいっぱいだったから乗れんかった!!それよりもおっちゃん!!」
「なんやねん?」
「おっちゃんは、門司でおうた時にゆかさんを泉大津の港で見たと言うたね!!」
「ああ、言うたよ。」
「ホンマにホンマ!?」
「ワシはホンマに見たからコリントに言うたんや。」
「おっちゃん、オレはさっきまで堺とその周辺の市《まち》で暮らしているゆかさんの友人知人さん宅を回った…せやけど、ゆかさんを見てないといよった…」
「ああ、それは残念だったのぉ〜」
「それともうひとり、小番頭《こばんと》はんも探しているけど、どこにもいてへんねん…」
「ああ、磯村はきまぐれな男だからあちらこちらをうろちょろしよるねん…」
「それでは困りまんねん!!」
「もうえかろが…ワシはこれから商売《バイ》を始めるところだから、話はまたあとにして〜な。」

おっちゃんは、私にそう言うたあと商売《バイ》を始める準備を再開した。

時は、5月21日の日中であった。

この時、私は九州の八代市にいた。

ゆかさんが小学生の頃になかよしだった友人が八代市《このまち》で暮らしていると聞いたので、片っぱしに歩いてゆかさんを探し回った。

しかし、八代市《このまち》でもゆかさんを見つけることができなかった。

その日の夕方5時過ぎであった。

私は八代市麦島東町《やつしろむぎしまひがしまち》にある河川敷の公園にいた。

私がいる公園は、球磨川《くまがわ》と支流の前川が合流する三角州《ちてん》にあった。

ベンチに座っている私は、カラスミを肴《さかな》にワンカップ大関をのんでいた。

きょう一日、八代市《しない》のあちらこちらをくまなく歩いてゆかさんを探し回った…

しかし、ゆかさんはどこにもいなかった…

このままでは、イワマツを作るお仕事ができなくなる…

どないしたらええねん…
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