乳房星(たらちねぼし)〜再出発版

【私はピアノ】

時は、7月20日の午後3時過ぎであった。

この日、私は尼ヶ崎市七松町《あまがさきしななまつちょう》にあるリサイクル工場で日雇いでバイトをしていた。

朝8時から今までの間、私は運ばれてきた大量のアルミ缶をつぶす作業をしていた。

バイトを終えた私は、日当9000円を受け取ったあと次のバイト先の甲子園球場へ向かう予定であった。

この時、事務所の人が私に電話がかかっていると言うて止めた。

なんやねんもう…

こなないそがしい時に、電話をかけてくるやつは誰ゾ!!

ところ変わって、事務所にて…

黒電話の後ろにある小さなオルゴールに受話器が載っていた。

私は、オルゴールに載っている受話器を手にしたあと話をした。

「もしもし、コリントでございますが…」

受話器の向こう側からヘラヘラした声が聞こえてきた。

声のヌシは、言うまでもなく番頭《ばんと》はんだった。

「ああ、コリントさんでおますか…これはどうも…」

私は、いらついた声で番頭《ばんと》はんに言うた。

「あの〜、私は時間がないねん…手短にしていただけるでしょうか?」

番頭《ばんと》はんは、ヘラヘラした声で私に言うた。

「ああ、これはすいやせんでした…ええとですね~…私の…」
「(いらついた声で)ポケットベルが鳴ったと言いたいのでしょ…」
「(ヘラヘラした声で)あっ、せやったせやった…コリントさん、きのう(19日)の夜おそくからきょう(20日)の未明か明け方頃ですけど…コリントさんはどちらにいらっしゃいましたか?」
「(いらついた声で)その時間帯は、西成の簡易屋《やどや》で寝ていました…あんたは刑事かよ!?」
「ああ、そうでおましたか~…こりゃシッケイ…」

(ガシャーン!!ツーツーツーツーツーツーツーツー…)

番頭《ばんと》はんは、ヘラヘラした声で私に言うたあとガシャーンと電話を切った。

ふざけんなよ…

人がおんまくいそがしく動いている時に、いらん電話をかけてくんな!!

私は、ものすごく怒った表情でつぶやいた。

その後、私は阪神甲子園球場で予定通りにビール売りのバイトをした。

バイトは、夜10時半に終了した。

事務所で日当8000円を受け取ったあと、足早に大阪市内へ引き返した。

そのまた次の日のことであった。

この日は、大阪西成区《あいりんちく》にある公園の清掃バイトをしていた。

この日午後4時半で終了した。

事務所で日当6000円を受け取った私は、足早に事務所から出発しようとした。

しかし、また私は事務所の人に電話ですよと言われて止められた。

また番頭《ばんと》はんがいらん電話をかけてきた…

ええかげんにせえよ(ブツブツブツブツブツブツブツブツ)…

私は、黒電話の後ろにある小さなオルゴールに載っている受話器を手にしたあと、話をした。

「もしもし、コリントでございますが番頭《ばんと》はんでしょうか?」

番頭《ばんと》はんは、ふざけた声で私に言うた。

「大当たり〜…よくわかりましたね〜」

私は、怒りを込めながら『人が急ぎよる時にいらん電話をかけてくんなよ!!』とつぶやいた。

番頭《ばんと》はんは、ものすごくふざけた声で私に言うた。

「コリントさん、もしかして怒ってはりまっか〜」

私は、あきれた声で番頭《ばんと》はんに言うた。

「番頭《ばんと》はんは、またポケットベルが鳴ったからと言いたいのでしょ…」
「(ものすごくふざけた声で)ああ、そうだった〜…すっかり忘れてたワ~」
「せやから、私は夜遅い時間帯は簡易屋《やどや》で寝ていました!!」
「(ものすごくふざけた声で)ああ、そうでしたか…こりゃシッケイ…」
「番頭《ばんと》はん。」
「なんでおますか?」
「なんでポケットベルがなるたびに私のところに電話をかけて来るのかな〜…」

私がそのように言うと、番頭《ばんと》はんは恐ろしい声で私に言い返した。

「おいコラ!!オドレ口が悪いぞ!!今からオドレに警告しておく!!京橋と田川伊田の2つの駅のすぐ近くにある電話ボックスを使ったらオドレの命《どたま》が拳銃《チャカ》でぶち抜かれると言うことをキモにすえとけ!!…分かっとんやったら2つの電話ボックスの付近をうろつくな!!分かったか!!…(ヘラヘラした声で言う)…と言うことでシッケイしやす〜」

(ガシャーン…ツーツーツーツーツーツー…)

またや…

番頭《ばんと》はんは言いたいこと言いまくったあと、ヘラヘラした声で『シッケイしやす…』でガシャーンかよ…

って言うか…

あの2つの電話ボックスのある場所に誰が行くか!!

私は、全身をブルブル震わせながら怒り狂った。

時は、夜10時半頃であった。

またところ変わって、大阪ミナミの道頓堀川《どうとんぼりがわ》にかかる相合橋《あいおいばし》の近くにある広場にて…

広場のベンチに座っている私は、カネテツ(デリカフーヅ)のちくわとごぼ天を肴《さかな》にワンカップ大関をのんでいた。

通りのスピーカーから、高田みづえさんの歌で『私はピアノ』が流れていた。

この時、私は7月17日の深夜に福岡市内のラブボで聞いた話を思い出した。

番頭《ばんと》はんは、もしかしたら例のラブボに私が泊まっていたことを知っていたかもしれない…

あの時、となりの部屋からものすごく大きなカベドン(音)が聞こえたので、おんまくたまげた…

あの時、となりの部屋に溝端屋のダンナたちと津乃峰《つのみね》がいた…

津乃峰《つのみね》は…

やつらから集団レイプの被害を受けたあと、殺されたようだ…

番頭《ばんと》はんから受け取った1億円の小切手を使い込まれたことが原因であった…

番頭《ばんと》はんは『津乃峰《つのみね》をレイプして殺した事件をとなりの部屋にいた客がサツにチクッた…』と怒っているだろう…

となりの部屋にいた客…

はっ…

もしかしたら…

いや…

それは違うか…

あの時、私はふとんの中で震えていた…

ものすごく恐ろしい声が響いたので、怖くて怖くて…

ふとんから出れんかった…

その時、部屋は真っ暗になっていた…

せやけん…

私は…

………

いや、それは私の思い違いだ…

…………

まてよ…

ここで番頭《ばんと》はんと会ったのは、7月18日の夜遅くだった…

その時、番頭《ばんと》はんは7月17日の夜遅くから18日の未明頃だと私に言うた。

その時間帯、私は簡易屋《やどや》で寝ていた…

それから数日の間も、同じ時間帯に例の電話ボックスに人が出入りしていたと聞いた…

例の電話ボックスに出入りしているやつは誰や…

私を悪者呼ばわりした番頭《ばんと》はんは、絶対にこらえへん!!

思い切りブチ切れた私は、怒りまくりながら食べかけのごぼ天を食べた。
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