干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「あぁ。……この企画は、雅也が関わるのか?」

 副社長は、伺うような様子で雅也を見る。

「そのつもりだよ。この仕事を成功させれば、次の道がもっと開ける」

「そうか……」

 副社長は美琴を促し、エレベーターに向かって歩き出した。

「俊介。見積りで弾かれるなよ」

 雅也の言葉に、副社長は前を向いたまま片手を上げる。


「あ、あの。さようなら」

 美琴もぺこりと頭を下げ、エレベーターへ向かおうとした時、ふいに雅也が美琴の手を掴んだ。

「え?」

 雅也はそのまま美琴を引き寄せる。


「あれから、俺の事、少しは意識してくれてる?」

 耳元で雅也の甘い吐息がもれた。

「ちょ、ちょっと……」

 美琴は耳を手で押さえ、真っ赤な顔で雅也を睨みつける。

「良かった。少しは気にしてくれてるんだね」

 雅也はくすくす笑うと美琴に手を振った。

「またね。美琴ちゃん」


 美琴は全身が熱くなるのを感じながら、お辞儀をしたたまま駆け出した。


 ――あの人といると、心が乱される……。


 じんじんとする耳を手で押さえながら、美琴は心の中でつぶやいた。
< 175 / 435 >

この作品をシェア

pagetop