干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「それにはもう一つ、越えなければいけない山があります。そのために僕は今から社長の所に行ってきます」

 急にその場に緊張感が走り、部長や東の顔つきが変わる。


 ――きっとプロジェクトの、今後を左右する話なんだ……。


 美琴もその空気を感じて静かに頷いた。


 みんなが片付けに取りかかった時、車に移動しようとしていた副社長が美琴を振り返る。

「友野さん」

「はい……」

 美琴は何だろうと、副社長に小走りで近づく。


「荷物の片付けが終わったら、少し会社で待っていてもらえませんか? 必ず戻りますので」

 美琴はどきっとしながら、すぐに首だけをコクコクと振って頷いた。

 きっとあの話の続きだろうと、心臓の鼓動が早くなる。


 すると、じゃあと片手を上げて歩き出した副社長が、ふと振り返って美琴の耳元に顔を近づけた。

 美琴は反射的に体が硬直してしまう。

「そういえば……テレビに映った友野さんのちょんまげ姿、とてもキュートでしたよ」

 副社長はそう言うと、いたずらっぽい笑顔を見せてから再び歩き出した。

「へ……?」

 美琴はキョトンとしながらそっと自分の前髪に手を伸ばす。

 ポンポンは存在を主張するかのように美琴の頭に鎮座していた。

「ひゃーーー」

 青ざめた美琴の悲鳴は、しばらくイベント会場に響き渡っていた。
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