干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「正直、東くんが抜けるのも痛いんだよなぁ」

 部長の困り果てた声が、副社長室内に響いた。


 今日はいよいよ、緑化事業部がフロアに引っ越しをする日だ。

「部長! よくぞ言ってくれました。俺がいかに有能だったか、みんな分かったでしょ?」

 えっへんと腰に手を当てる健太を見て、笑い声を上げながら各々荷物の移動準備を進める。


 あの後正式に辞令が出て、部長はメンテナンス部から異動し緑化事業部の部長となった。

 今まで俊介が行っていた管理業務全般は部長に、健太が行っていた業務は瑠偉に引き継がれる。


「緑化事業部の活躍を、期待しています」

 俊介に見送られながら、美琴達は副社長室を後にした。

「なーんか、寂しくなっちゃったな……」

 急にガランとした室内を見て、健太がぽつりとつぶやく。

「あぁ。そうだな……」

 俊介は、みんなのデスクが置かれていた場所と、ソファをぼんやりと見つめていた。



「ふ、二人とも今頃寂しがってるよね。きっと」

 フロアに向かう廊下を歩きながら、滝山が小さく声を出す。

「うん……。私たち、大切な仲間だったもんね」

 この濃い一年間で、美琴の人生は180度変わったと言ってもいい。


 ――でもそれは、副社長も一緒かな。そうだったら嬉しいな。


 美琴は窓から見える空に浮かぶ雲が、風に吹かれて流れていく様を目で追っていた。
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