干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「もしもし?」

 スピーカーから、美琴の明るい声が漏れ聞こえる。

 下を向いていた由紀乃の肩が、ぴくりと動いた。


「美琴……? あ、いや、友野さん。今日のスケジュールの事なんですが、急用が入ってしまって……」

 俊介は口元を手で覆い、なるべく小さい声で話した。

「はい……」

 俊介の話し方で、誰かが側にいるのを察したようで、美琴はあえてかしこまった声を出している。

「リスケジューリングしても良いですか?」

「こちらは大丈夫です。副社長のご都合に合わせます」

「では、また連絡します」

「はい。失礼します」

 俊介は名残惜しそうに、画面を見つめながら通話を終了する。


 美琴はきっとこちらの状況を考えて、あえてあんな風に業務的に答えたのだろう。

 自分の都合であるのに、それでも俊介は少し寂しさを感じていた。


「社員の方ですか?」

 由紀乃が小さく声を出す。

「あ、はい。緑化事業部の部下です」

「女性もいらっしゃるんですね」

 由紀乃は少し意味深な言い方をした。

「え? あぁ、はい」

 俊介は首を傾げながら曖昧に返事をする。


 しばらくして由紀乃は、また俊介を上目づかいに見つめた。
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