干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~

それぞれの思惑

「なんかさ、噂になってんだけど……」

 美琴のデスクの向かいから、瑠偉の声がぼんやりと漏れ聞こえる。

 俊介との約束がなくなり、昨日の美琴はひどく落ち込んでいた。

 それでもきっと仕事の急用だろうと自分に言い聞かせて、気持ちを切り替えていた矢先だった。


「副社長がさ、めちゃくちゃ美人な女の人を連れて、車に乗り込んでったって……」

 美琴は何となく耳に入ったその言葉に動揺して、手元の書類を床に落としてしまう。

 胡桃が慌てて瑠偉の肘を小突き、瑠偉ははっとして美琴を振り返った。


「あ……いや。仕事の相手かも……ですし」

 慌てて取り繕う瑠偉に引きつった笑顔を向けると、美琴はサッと席を立った。


 ――昨夜(ゆうべ)、副社長からメッセージが来なかった。その女性(ひと)と一緒にいたからなの……?!


 美琴はスマートフォンを握りしめ、不安な気持ちのままフロアを飛び出していく。


 その後ろ姿を見ながら、胡桃が大袈裟にため息をついた。

「昨日、ドタキャンされたんだって。副社長に」

「え?! 友野さんが?!」

 胡桃は、瑠偉を横目で見ながら小さく頷いた。

「なんか、やばくない?!」


 そんな二人の会話を聞きながら、部長は渋い顔を滝山に送る。

 滝山は顔を青ざめさせながら、訳が分からないと首を横に振っていた。
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