干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~

聞かされた事実

 美琴は不安な気持ちを抱えて、廊下を歩いていた。

 もう展示会は目前に迫っている。

 仕事をしなければいけないのはわかっていたが、どうしても瑠偉の話が頭から離れなかった。


 ふと、手元のスマートフォンに目線を落とし、画面をタップする。

 久しぶりに開いたあのSNSは、ちょうど1年前に渓谷の写真がアップされた後は、何も更新されていなかった。


「うっそー! 本当なの?!」

 突然大きな叫び声が聞こえて、美琴は目線を上げる。

 見ると休憩室の奥の方で、数人の社員達が楽しく談笑している様子が目に映った。

「裏情報なんだけど、本当らしいよ! だって昨日見たって人がいたもん」


 ――昨日……?


 美琴は、何となくその会話が気になり足を止める。


「副社長が、鷺沼造園のお嬢様と結婚するって!」

 きゃーという悲鳴にも似た女性達の声が、休憩室内に響いている。

 美琴はその話に狼狽(うろた)えて、その場から一歩も動けなくなっていた。

「あれ? でも副社長って、干物ちゃんと噂なかったっけ?」

「え?! あれ本当だったの?」

「まさかでしょ。間違いじゃない?」

「だよね。副社長と干物ちゃんじゃ、釣り合わないもんね」

 あははと笑う声が美琴の中でガンガンと響き、頭が真っ白になっていく。

 美琴はそっと身体を(ひるがえ)すと、必死に足を動かしエレベーターに向かって駆けだしていた。
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