干物のミカタ ~副社長! 今日から私はあなたの味方です!~
「今、俊介はフリーだよ……」

 東は、美琴の耳元で(ささや)きながら、にやりと笑った顔を覗き込ませた。


「べ、別に私は、そんなこと……!」

 美琴は、ボンっと沸騰したように、顔を真っ赤にさせる。

 そして東の手を払いのける様に、離れて目をそらした。


「いやー。会社って楽しいねー! タッキー!」

 東は笑いながら、滝山の肩をバシバシと叩く。

「な、なんすか?! 急に!」

 怪訝(けげん)な顔をする滝山の肩を組み、東は声をだして笑いながら歩いて行った。


「東さん、距離感近いよ……」

 そうつぶやきながら、美琴はぴたりと足を止めた。


 ――私は干物だもん。恋の仕方もわかんない……。


 ふと頭の中に、副社長の笑った顔が浮ぶ。

 美琴は、慌てて大きく首を振った。


「副社長がフリーだとか、私は……気にしてませんから!」


 美琴は一人廊下で叫ぶと、真っ赤になった顔を手で仰ぎながら、二人の背中を追いかけた。
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