一生分の愛をくれた君へ
3.君と思い出を作りたい夏
 駅から電車に揺られて二時間、俺たちは県の最果てまで来ていた。ここまで来ると、英もまばらで、店とかもほぼなく、山と田んぼくらいしかない。でも街の喧騒は俺にとっては騒がしすぎるからむしろこのくらい静かな方が落ち着く。隣にいる綾乃は電車に揺られて舟をこいでいた。今日は早起きだったから仕方がない。むしろ遅刻しなくて本当に良かったと思う。
 トンネルを超えると田んぼしかなかった景色も一気になくなって綺麗な海が広がった。

「ん。ふああ~あ。おはよう翔ちゃん」
「おはよ。綾乃、まったく、女子とは思えねえひでえ顔してんな」

 その寝起きのマヌケすぎる表情に思わず声を出して笑ってしまった。綾乃はほっぺたを膨らませて睨みつけてくる。

「え、酷い~!仮にも女子に対して言う事じゃないよ!」
「仮でいいのかよ。ごめんって。まあまあ見てみろって綺麗な海だぞ」

 窓の外を指さすと綾乃は子供のように目を輝かせて窓の外を見た。

「うああ!本当に綺麗~」
「ほんとだな」

 窓の外から見える海は、濁りのない綺麗な青い海、水平線の上にはカモメが飛んでいて、まるで絵の中の風景だ。思わずスマホで撮影してしまった
「早起きしてここに来れてよかった! だってこんな素敵は景色を見れたんだもん」
「それはわかったけど、もう少し静かにな。お客のお客さんに迷惑になるから」

 電車の中はまばらにしか人がいなかったけど、流石に電車の中で大きな声で年甲斐もなくはしゃいでいたら嫌な目で見られてしまうだろう。

「はーい、じゃあ降りてからはしゃぎまーす」

 そう言って椅子に座りなおすと首を俺の肩の方に傾けてきた。

「えっ、綾乃」
「こんくらいはいいでしょ。迷惑にならないんだから」
「うーん。わかったよ」

 結局綾乃は電車から降りるまでずっとその体制のままリラックスしてして、途中乗ってきたおばさんにあらあらあらとニコニコして言われて少し恥ずかしかった。

「やっと降りれたあ」
「お前はほとんど寝ていただけだろ」
「後半は起きてましたー」
「小学生みたいな言い訳してんじゃねえよ」

 それからさらに一時間。合計三時間乗り続けて終点へと向かった。あれだけ賑やかだった地元の駅とは違って。ここの駅はとても静かで自然と心が落ち着くな。綾乃は楽しそうにおっしゃー―着いたぞー! なんて年頃の女の子らしくない発言をしている。今時おっしゃーなんていうやついるのか。こんな静かな場所だから彼女のうるささは際立つものだ。

 無人駅を降りて、五分くらい歩くと海が見えてきた。堤防から浜辺に降りられるところを見つけて浜辺に降りた。結構早めにあっちを出たのに、ここに着くころにはもうお昼時だ。
  
「本当に静かだね」

 静かに綾乃が呟いた。この海は綺麗さを保つために、遊泳禁止されているし、都心からかなり離れているからわざわざ見に来る物好きなんてそうそういない。……
俺らみたいなやつ以外は。

「ねえ、せっかくだから泳ごうか」
「……水着持ってきてないぞ」
「じゃあ裸で泳げばいいじゃん」
「はあ? そんなの出来るわけないだろ。恥ずかしい」
「えー?私はちゃんと水着持ってきたんだから」
「お前さあ、自分は水着持ってるからってそういう事いうのかよ」
「じゃあ、私にも裸になれって言うの」
「そんなんじゃないけどよ」

 からかうような綾乃の口調に俺は呆れて肩を竦めて見せた。

「それに、ここって海水浴禁止だし」
「別にいいじゃん」

 よくないだろって言って彼女の顔を見るけど彼女はいつものニコニコした表情じゃない。真剣な顔になっていた。

「だって、私はもう半年しか命がないんだよ。こんくらいルール違反しても罰が当たらないと思わない?」
「それは……」

 その言い方はずる過ぎる。そんなこと言われたらなんて言い返せばいいのか分からないじゃないか。

「なーんてね。冗談冗談。どんな境遇でもダメなものはだめだよね」
「入ろ」

 綾乃の手を引いてそのまま波がする方へと向かった。「ち、ちょっと」と困惑する綾乃に構わずそのままダボダボと、音を立てて水が靴に入っていくのがかなり不快だったが気にしてられないそのまま歩みを進めた。

「足だけなら遊泳とは言わないだろ」
「それ凄い理屈っぽい」
「いいんだよそれで。もし誰か来たら一緒に走って逃げよう」
「なにそれまるでドラマのワンシーンみたい」 

 なんて綾乃がおかしいことを言うもんだから俺も一緒になって笑ってしまった。それから俺たちは水かけをして遊んだり、砂場で砂の城を作って遊んだ。幸い、人が少なかったし、時々見かけた人達もわざわざ俺らを咎めるような事をしてこなかった。

「うまー! やっぱりこういうところの店って絶品だね」
「ああ、そうだな。うめえ」
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