一生分の愛をくれた君へ
5.君と過ごしたい冬

 修学旅行が終わって十一月も終わり、十二月に入った。家で大人しくしているからだろうか、半年しかないと言われていた綾乃の命はまだ続いている。もしかしたら一生懸命必死に生きるところを神様が見て、もう少し生きさせてあげようと思ったのかもしれない。

「お邪魔します」

 そう言って家に上がらせてもらうと二階から綾乃が出てきた。階段の上で部屋着でたっている。

「いいよいいよ降りてこなくてすぐそっちいくから」

 そう言って急いで階段を駆け上がって綾乃の元へ行った。

「よっ、綾乃」
「うん、こんにちは」

 綾乃は会うたびにだんだんやつれて行っている気がする。やっぱり病気のせいで、食事も出来ていないのだろうか。だんだんやせ細っていく彼女を見るのは見ていて痛々しいものだ。

「ここじゃあれだから、私の部屋入りな」

 そう言われて言われるがまま綾乃の部屋に上がりこんだ。彼女の部屋はメイクの道具やぬいぐるみや可愛いクッションが置いてあって、今どきの女子高校生の部屋って感じだ。

「それで、どうしたの」
「いや、修学旅行終わったからお土産持ってきたんだ。ほれ」
「うわ。かわいいありがとう」

 俺がお土産に選んだのは、鳥のキーホルダー。下手に食べれるか分からないものを買うより、可愛いものが好きな彼女にはこっちの方が喜んでくれるんじゃないかと考えたのだ。
「うわあ。ありがとう。大事にするね」

 彼女は嬉しそうに受け取ってくれた。そんなに喜んでくれるならやっぱりこれを選択してよかったと思う。彼女はいきなり思い出したように言い出した。

「あ、テスト勉強してるよ」
「もちろん。やってるよ」
「そっかー私がいなくなって勉強する気なくしたと思ったけど、私がいなくてもやってるんだね偉い」
「当たり前よ。だって」
「だって?」

 途中で言いかけてやめた言葉に綾乃は「何?教えてよ」と言ってきたけど、まだ教えなかった。まだこのことを言うのが恥ずかしくて思わずごまかせしてしまった。

「そんな事よりもうすぐ冬休みなんだ」
「早いねーもう余命宣告されてから半年がたつんだね」

 あと半年で死ぬって初めて言われた日から半年が過ぎた。もういつ綾乃が死んでもおかしくない。心の準備はしているつもりだが、やっぱり居なくなってしまったらショックで耐えられないと思う。

「そうだな。考えてみたらあっという間だった気がするな」
「うんそうだね」

 図書館で勉強して、一緒にショッピングに出掛けた。海にも行ったし、遊園地にも行って、夏祭りにも行った。一つ一つが掛けがえがなくて大事で楽しかった思い出だ。

「ねえ、今翔ちゃんが思っていた事を当ててあげようか」
「何?」
「今、思い出の感傷に浸っていたでしょ」
「よくわかったな」
「当たり前よ。だてに長く恋人をやってきたわけじゃないのよ」

 そう言ってどや顔をする綾乃。その顔を見ていたら思わず肩に手をやって顔を近づかせてしまった。綾乃もゆらゆらした瞳で顔を赤らめてこちらを見ている。だんだん近づいていってお互いが触れられ理知になった瞬間。

「おやつとジュース持ってきてあげたわよ」

 綾乃のお母さんがノックして入ってきてとっさに離してしまった。

「ありがとう、お母さん」
「いいえー」

 彼女が出ていった後少し気まずくなってしまって沈黙が続いた。

「もうすぐクリスマスだね」

 その沈黙を破ったのは綾乃だ。そういえばもうそんな季節か。今年は全然雪が降らないから全然そんなこと忘れていたな。

「そうだな。冬休みに入ったらクリスマスはすぐそこだ」
「クリスマスは翔ちゃんと一緒に過ごしたいな」

 彼女はまっすぐな瞳でそう俺に告げてきた。それに対して俺もと言って笑って聞いた。

「ねえ、今日って出れない?」
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