一生分の愛をくれた君へ
2君に寄り添いたい夏の初め

そして中間考査が終わり全ての答案が返された。この学校は今時珍しく、成績優秀者の二十人は、テスト終了から一週間後の放課後に上から名前が職員室に張り出される仕組みになっている。皆それを見ようと休み時間は職員室前は凄く混雑していた。

「やっぱり俺の名前はないか」

 まあそうだろうなとは思っていた。テスト前に勉強をしていきなりランキング上位に入れてたら誰も苦労はしていないだろう。

「お、翔ちゃんじゃん。どうだった順位乗ってた?」
「乗ってるわけないだろ。綾乃は、まあ聞くまでもないか」
「うん。今回も一位だったよ。やったあ」

 やったあと言ったけど、そこまではしゃいではいない。それはそうだろう。だって彼女は入学時の学力診断テストからずっと一位なのだから。

「翔ちゃんはどうだった?」
「俺も結構点数は伸びたよ。特に数学は平均点を越す事が出来たし」

 一年の頃は数学は常に赤点ギリギリという綱渡り状態で生きていたのに、綾乃に教わったおかげで多少理解する事が出来て、一気に点数を盛る事が出来た。これは頑張ったねと言われると期待していたのだが、彼女は言った事は予想外の言葉だった。

「いやいや、平均点以上で満足しているのは甘いね。変なところでケアレスミスとかして点数下げちゃっているんでしょ。仕方がないから付き合ってあげるから、今日帰りにマックに寄って勉強していこう」
「うへえ、ついこの前までテスト勉強で疲れたのに、また今日も勉強するんすか。ちょっとは休みましょうよ。綾乃さん」
「何言っているの翔ちゃん。勉強は忘れないうちに復習しないと、意味ないんだからね。折角覚えた公式も忘れちゃったら意味がないでしょ」

 優等生のテンプレみたいな返しだな。でもまだテストが終わって一週間なのに、復習するなんてどんだけ生真面目なんですか。でもまあ学年万年一位の人にこれだけサポートしてくれるなんて、中々ありがたいことだから好意は受け取っておくか。

「そうか。じゃあ勉強するか。でも、俺先生に呼ばれてるからさ、ちょっと先に外出て待っててくれる?」
「おっけーじゃあ先言って待ってるわ」

 綾乃が走って行くのを見送って、職員室の中に入った。放課後なのに先生たちはみな忙しそうにキーボードを動かしたり、書類に何かを書き込んだりしている。

「お、井上来たか。こっちこっち」

 深山先生は奥のディスクから身を乗り出して手を挙げていた。急いでそちらへと向かう。そると、椅子を出され座って面接みたいに先生と向き合う形となった。

「それで、先生何の用でしたか」
「ああ、それがな。この前進路調査票やっただろ」
「そういえばやりましたね」
「それがお前だけ出されていないから呼び出したんだ」
「ああ、すみません。まだ決めていないですよ」
「どこに就職したいとか、進学したいとかざっくりでいいんだぞ。別に今全部決めろなんて言ってないんだ。それでも決められないのか」

 とはいってもまだ二年の春が終わったころだ。そんな時期にもうみんな自分の進路を決めているのだろうか。小さい声ですみませんというと先生は困った顔をしてポリポリと頬をかく。

「まあ橋本のこともあるだろうしな。大変なことも分かるけどよ。これは、早めにきめて提出してくれよ。あと、まあ何かあったら先生も相談乗るからな。困ったことがあったら話せよ」
「え、はい」

 それは深山先生なりの気遣い。優しさだという事に気づいた。先生は普段は適当で無表情だから何を考えているのか分からなかったけどちゃんと生徒の事考えてくれているんだな。そう考えたら胸がジンと熱くなった。

「ありがとうござます。進路調査も決めたら出しますので」
「頼んだぞ。じゃあ今日は帰っていいぞ」
「はい!失礼します!」
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