遠距離恋愛は人をダメにする。
あれ、絶対わざとだよね。

パジャマで隠していたものの下着姿の私。
自分ではどこまで隠しきれたかはわからない。

なんか…腹が立ってきた。

せっかく優くんが来たから、少しだけ、ほんの少しだけ、可愛い服を着ようと思ったけど止めた。

適当に服を着た。

休みの日、どこも出かけない時に着るような、でもママが近くのスーパーやドラッグストアで買い物をするから付いてきてと言われたらその格好で行ける程度の服。

私は階段を下り、リビングに行く。

「おはよう」
これまた悪気のない爽やかな笑顔。

「ちょっとぉ、勝手に入らんとおいてっ」

「ごめん、ごめん、まだ寝てると思ったからさぁ。まさか着替えてたとは…」

「寝てへんし」

「ちょっとは期待したけど…ほんのちょっとね」

「何を」

「着替えてるの」

「ほらみー」

「で、見たの?」

「は?見えてないよぉ」

「本当にぃ」

「あ、パンツは紺だったかな」

「残念、それはパジャマの色です」

「ははっ、それは残念」

「って、桃香ちゃんにチクるよぉ。私の着替え、覗いたって」

「あ、それは…止めてください」
優くんは、笑いながら言う。

「絶対に言ってやる」

「で、今からどうする?」

「どうするって、ママたちが帰ってくるまで留守番じゃないの?」

「ううん。晴良とどっか出かけたら?って」

「はぁぁ」

「なんか夕方ぐらいまでに帰ってくればいいらしい」

「夕方って?」

「夕食はここで食べるらしいから、6時ぐらいじゃないかなぁ」

「そうなの?」

「で、どこ連れてってもらえるのかなぁ」

「ちょ、ちょっと待って」

「何?」

「ふたりで出かけるの?」

「ふたりじゃなかったら、誰と出かけるの?」

「わ、私と友達とか」

「うん。別にいいよ」

「誰かいるの?こんな急に…」

「あ、待って」
私は慌てて、菜々にLINEをした。

【菜々、今暇?】

なかなか既読が付かない。

リビングには、私と優くん。
土曜日の昼のテレビは、再放送のバラエティー番組が流れている。

しばらくすると、菜々からLINEの返信が来る。

【今、お出かけ中】

【助けて】

【どうした?】

【東京から優くんが来てる】

【えええっ、晴良の幼なじみの?】

【そう。ふたりきりで出かけたくないから。桃香ちゃんに悪いから】

【そういうことね。理解】

【今、どこにいる?】

【扶桑のイオン】

【誰と?】

【彰くんと】

おおっ、なんというタイミング。

私と優くん。
そして、菜々と彰くん。
これならいけるかも。

【じゃあ、今から行く】

【うん。じゃあフードコートで】

【わかった】

「どうだった?」
優くんが聞く。

「ちょうど友達が彼氏くんとお出かけしてて。こっから近いし。イオンだけど」

「イオンね。は?じゃあ、行こうか」
優くんは、テレビを消し立ち上がる。

「あれ?ちょっと待って。優くんどうやって行くの?」

「は?歩いてじゃないの?」

「は?私は自転車だけど」

「そんなに遠いの?今から行くところ」

「近いと言えば近いけど、遠いと言えば遠いかなぁ」

「何、それ。バスとか無いの?」

「無い、無い。そんなの」

「は?イオンだよね。バス走ってなくて、みんなどうやって行くんだよぉ」

「車、車」

「中学生は?」

「自転車」

「じゃあ、晴良のお兄ちゃんの自転車は?」

「今、部活で乗ってちゃってる」

「そうなんだ。そんな歩けない距離?」

「いや、そんなことはないけど」

「じゃあ、歩いて行けばいいじゃん」

「うん。わかったぁ」


そして、ふたりは家を出た。

まさか歩きで扶桑イオンに行くとは思わなかった。

この辺りは、木曽川の中流域で軽めの坂を上れば畑、下れば水田という場所だ。

敷地に余裕があるため、大きな事務所兼倉庫も建ち並んでいる。

あとは、ポツリポツリと一軒家がある。

のどかなところだ。

そんなところを、今、優くんと並んで歩いている。

そういえば、東京の日野市、百草園だって似たようなところだ。

多摩川の中流域で川沿いは平地だが、京王線の線路と大きな道路を渡れば、丘陵地帯。

向こうの方が歩くのはきつい。

それも、まだ、保育園に通っていた頃だ。

あの頃の方が数十倍歩くには辛かった。

でも、優くんとふざけて、話をしながら歩けば、あっという間だった。

今も、優くんとふざけて、話をしながら歩いている。

なんか、懐かしい。
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