あなたがいるだけで…失われた命と受け継がれた想いを受け止めて…
親友との約束

 駅から少し離れた場所に建っている高級リゾートホテル。
 ここは会員制で、限られた人しか入ることが出来ないホテル。

 奏弥はヒカルを連れて、ホテルの1階にあるレストランへやって来た。
 予約をしていて、さっそく席に案内されると、ヒカルが座る為に奏弥が椅子を引いてくれた。

「す、すみません…」
 
 小さく答えたヒカルは、ちょっと遠慮がちに座った。

「ここのお任せコースは最高に美味しいから、遠慮なく食べてね。畏まらなくていいから、気楽にどうぞ」
 
 向かい側に座った奏弥は、とても嬉しそうにヒカルを見ていた。


 間もなくして前菜が運ばれてきた。
 綺麗な彩の前妻にヒカルは見惚れながら味わった。

 仕事が忙しくてヒカルの父親はあまり家にいない事が多く、一緒に外食をする事はめったになかった。
 どこかに行くにしても、いつも携帯電話が鳴って仕事の話をする事が多く、旅行には行けない日々で、ゆっくりと話した記憶が少ない。

 父と2人で話したのは…

(…幸せになりなさい。…お前の父親になれて、私は幸せだった…)

 そう最後に言い残した父親の言葉が、ヒカルにとって最後だった。

 
 メイン料理を食べ終わりデザートが来て、美味しそうなフルーツにシフォンケーキを見るとヒカルの表情がほころんだ。

「娘と一緒に食事をした事は、中学生以来なかったよ。いつも夜遊びばかりしていて、近づいてもくれなくなったからね」
 
 ヒカルも同じだった。
 父親に反抗して、夜遊びばかりして家に帰らない日もあった。

 それでも父親は怒る事もしないで、黙って見ていた。

「自分も、父とはあまり食事をした事はありませんでした」
「え? 」

「あの…。これは、お話した方がいいと思いますので言いますが。自分は、今の父親とは血の繋がりはありません」

 驚く事もなく奏弥はヒカルをじっと見ていた。
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