夜這いのくまさん


「一緒に燃えるか?」 
いっそう悪魔のように笑って、床にマッチ棒を落とした。ゆらゆら光ってすぐに範囲を広げる火の海をどこかアーレットは憑き物がおちたように見つめていた。
その姿は儚く、あるときみた母親のような顔をしていた。キースがシェリーを抱きしめ、黙って担ぎ上げた。アーレットは逃げる様子もなく、諦めたように膝をついた。

思わず、シェリーは叫んだ。

「死のうとするのは許さないから!!アーレットがシャーレイを傷つけた罰を背負って、生き抜かないと、許さないから!!絶対許さないからー--!!!」

一緒に死んでしまおうとしていたのに、なに勝手なことを言っているんだと思った。
でも彼は死んで楽になりたいと顔が訴えていたのだ。私と最後に目があったとき、どこか眩しそうに目を細めていた。卑怯で、クズで、どこまでも自己中心的な男。死んだら清々するはずなのに、私は泣いていた。悔しくて、やりきれなくて、泣いていた。

キースは泣いている私を抱えて走っていった。攫うように、しっかりだきしめたまま。
どんどん小さくなるあの場所が、炎に覆われ崩れていくのを見た。まるで火葬だとおもった。湧き上がる灰が今まであそこで女が泣いていた涙のようだと思った。火がぼうぼうと燃えているのを聞いて、私たちとは違う方向に女こどもともに走っていく。その女たちの顔は信じられないものをみたような、複雑な顔をしていた。

灰は湧き上がり、歴史は燃える。
解放の叫びのように空高く炎は舞い上がる。
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