湖面に写る月の環

26

(……逃しちゃ、いけない気がする)
僕は踊り出しそうになる脳内のペン先を抑え込み、必死に目の前の光景を目に焼き付けることにした。
――話を作るネタになると、そう確信して。

「それじゃあ、犯人は彼女たちの中に……?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
僕の言葉に、岡名が慌てた様子で声を上げた。
「た、確かに彼女たちの活動場所には機材が揃っているが、だからといって彼女たちが犯人だとは限らないだろう?」
「ほう。というと?」
「彼女たちの使っている教室は、生徒であれば誰でも使用できるんだよ。サークル活動も毎日やっているわけじゃないし、時々先生方も使いに来るから、インク量とかの判断は出来ないんじゃないかな」
探偵少年の鋭い視線を正面から受けながらも、彼は言葉を返す。手にはいつの間にか大学のパンフレットも持っており、それを広げながら説明をしている。
教室の位置と、機材のある場所。資料室の隣にある『怪奇現象執筆サークル』の文字に、岡名が嘘を吐いているとは思えなかった。
(しかも、この位置……人が多い場所を歩かないと行けない場所じゃないか)
「職員室、食堂、購買、資料室か……。人目を避けて行くのは難しそうだな」
「ううむ……」
悩ましい声で唸る探偵少年に、僕は苦笑いを浮かべる。
(……これには探偵くんもお手上げか)
さっきの出来事があって少しばかり期待をしたものの、やはり全てがわかるわけでは無さそうだ。僕はパンフレットから顔を上げ、岡名を見た。緊張した面持ちの彼は、どうやら反論を恐れているようにも見える。そんな岡名の様子も横に、探偵少年はうむむと唸り続けると、暫くして大きく仰け反った。
「だあああー! これだけじゃよくわからん!」
「流石の探偵もお手上げか?」
「いや、現場は実際に見てこそ見えてくるものがある!」
「は?」
意気揚々と声を上げる彼に、僕は首を傾げる。……つまり?
「大学に乗り込むぞ!」
「はあっ!?」
(乗り込むってなんだよ!?)
斜め上をいく探偵少年の言葉に、目を見開いた。大学に乗り込もうなんて、そんな話聞いたこともない。今時、悪戯でもしないぞと彼を睨みつければ、その奥で岡名が顔を輝かせている事に気が付いた。
「その手があったか!」
「ええっ⁉」
(賛成するのか、それっ⁉)
まるで名案だとばかりに目を輝かせる彼に、僕は頬を引き攣らせる。こんなの名案でも何でもない。はあっと重いため息が零れ落ちる。だめだ。探偵少年に関わるとすぐに流れを持っていかれる。
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