湖面に写る月の環

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どこから持ってきたのか、ちゅう秋は蝋燭を顔の下から当てている。あまりにも理解不能な状況に一瞬脳が着いてこなかったが、ちゅう秋の蝋燭を消す音で意識は無事戻ってきた。
「な、何してるんだよ、ちゅう秋」
「び、びっくりした……」
「はははっ。驚かせようと思ってね。ちょっと飾ってあったものを拝借したんだよ」
「そんなもの借りるんじゃないよ」
「スリルは大切だろう?」
悪戯が成功したからか、上機嫌に笑うちゅう秋は蝋燭を元の場所へと戻す。見目を整え、再び火をつける様子を見つつ、僕は息を吐いた。わざわざ付けるなら消さなくてよかったのに。
(相変わらずの愉快犯だな)
彼の考えることはよくわからない。
「それじゃあ、僕はこれで。また後で来るよ」
「はい」
「楽しんで」
ニコリと笑みを一つ落とし、岡名は去っていく。その背中を見送った僕たちは、パーティーに並んだ食事を一回りする事にした。こんなところに知り合いなんている訳もないし、話しかける勇気も僕には無い。つまり、それくらいしかすることがないのだ。残念なことに。
じきに始まったパーティーは、静かに──しかし盛大に行われた。岡名の隣に立つ、髪の長い女性はまるでモデルのように美しく、赤く引いた紅が白い肌を引き立たせていた。お似合いの二人は寄り添うように立っており、岡名はひがしを常にサポートしている様子だった。その姿に、僕は彼女が盲目であることを思い出した。
(綺麗な人だな……)
目が見えていないとは思えないほど自然に過ごす彼女は、岡名の声に嬉しそうに笑みを浮かべている。そんな二人に、祝福の声があちらこちらから湧き出る。溢れんばかりの声は、まるで世界中が二人を祝福している様だった。僕は滅多に食べられないケーキを口にしながら、その様子を遠巻きに見つめる。その輪の中に入る勇気は、僕にはない。
「すごいなぁ」
「ふふっ。岡名さんはかなり人徳のある人だからね」
「何となくわかるだろう?」と笑うちゅう秋に、僕は頷く。確かに、彼は“出来る男”を体現したような人物だ。優しいし気が利くし、見目もいい。使う言葉も綺麗で、人に興味のない僕ですら好感を持てるのだから、そんな彼を周りが放っておくわけが無い。
「岡名さん、あの若さでかなりのやり手なんだ」
「そうなのか。知らなかった」
「次期社長になるかもって噂があるくらいだからね」
「次期社長!?」
あまりの事実に、素っ頓狂な声が飛び出る。まさかそんな偉い人だとは思わなかった。
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