湖面に写る月の環

06

にこりと笑う彼に、探偵少年も笑みを浮かべる。和やかな雰囲気に絆されてしまいそうになるが、和んでいる場合では決してない。僕はちゅう秋への不審感が込み上げるのを感じつつ、口を尖らせる。
「他校の人と知り合いなんて、いつの間になったんだか」
「いやなに。妻の繋がりでちょっとね」
足を進めながらも笑みを浮かべて言うちゅう秋に、僕は何とも言えない気持ちに苛まれた。余裕綽々な表情を浮かべる彼は、自分と同い年のはずなのに、どこか大人びているように見える。
(くそ……)
勝負などしていないが、なんだか負けた気分だ。
「妻、って、先輩結婚してんのか!?」
「ははっ!」
「そんなわけないだろ。僕たちはまだ高校生だぞ」
「えっ? でもさっき妻って」
「それはこいつの癖だよ」
ちゅう秋の言葉に混乱する探偵少年に、僕は首を振る。困惑した様子に内心同意したのは、秘密だ。
「ちゅう秋は彼女と婚約をしているんだ」
「婚約……」
「そう。でも将来は妻になるのだから、なんら問題はないだろう?」
「妻も納得しているし」と言う彼は、心底嬉しそうで。
「ははは……相変わらずなようで何よりだよ」
僕はそう言う事しか出来なかった。仲がいいことはいいが、その惚気に僕たち周りを巻き込まないで欲しい。

他愛もない話をしながら辿り着いたのは、中禅寺湖の近くにあるボートハウスだった。大空と湖面が混じり合い、とても美しい。湖を一望できるそこは、常に観光客で溢れている。今日も例外なく人で溢れるテラスで、ちゅう秋は足を止めた。
「ここで依頼主と会う約束をしているんだ」
「「依頼主と?」」
「そう。とはいっても、今回は近状報告だけなんだけどね」
ちゅう秋はそう言うと手すりに体を預けた。相談を受けていたと言っていたし、定期的に会っているのだろう。
「妻が入っている部活の先輩だったそうなんだ。それで今回相談を受けて、俺のところまで回ってきたんだよ」
ちゅう秋の言い分に相槌を打つ。確かに、それならば全てに納得がいく。――しかしそれならば初対面の探偵少年に任せるのは、やっぱり不安じゃないのだろうか。彼の溺愛している奥さんの繋がりなのに、失敗しては探偵少年の首が危うい。もちろん、心配なぞ微塵もしていないけれど。
「大丈夫なのか? 君が受けた依頼を他に譲っても」
「もちろん。妻には事前に連絡をして許可をもらっているよ。心配は要らないさ」
「それならいいんだけど」
(万一、門前払いをされたら探偵少年が何をしでかすかわからないからなぁ)
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