湖面に写る月の環

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「先輩の分のプリンも頼むからいいだろ~」
「お前なぁ……」
「はははっ、じゃあ皆で一つずつ頼もうか」
それぞれ飲み物と簡単な食事を頼んだ僕たちは、早速とばかりに話始めた。
「例の、サークルの話なんだけど、あれから岡名さんと話したんだ」
「岡名さんと?」
「うん」
ちゅう秋の言葉に、僕は瞬きを繰り返す。あの披露宴からというもの、彼とまったく話していない。そんな彼とまさか話をしていたなんて。
「最近忙しそうにしていたのは、そのせい?」
「嗚呼いや、それはまた別件でね」
「ふぅん」
(別件って……コイツ本当によくわからないな……)
いったい、普段彼は何をしているのだろうか。謎しかない彼の私生活に、僕は複雑な心境になる。友人として数年間も一緒に居るが、未だに彼のことはよくわかっていない。運ばれてきたコーヒーを一口飲んだ。ブラックコーヒーの渋い風味を舌で転がしながら、僕はちゅう秋の言葉に耳を傾けた。
「脅迫状があってから、岡名さんたちにはあまり外出をしないように言っていたんだけど、校内での嫌がらせは中々無くならなくってね」
「そうだったのか?」
「うん。しかも最近はそれがかなり激化していてね。彼女たち全員に被害が及んでいるらしいんだ」
「全員に⁉」
僕は驚きに声を上げてしまう。まさかひがし京以外の周囲にも被害が広がっていたなんて。
「――ちょっと待ってくれ」
「どうしたんだよ?」
「どうしたんだい、探偵くん」
「それじゃあ、誰が犯人なんだ」
「「は?」」
探偵少年の言葉に、僕とちゅう秋の声が重なる。唖然とする僕たちに、しかし探偵少年は確信を持った声で続ける。どうやら彼は何かに気がついたらしい。コーヒーに夥しいほどの砂糖を入れながら、難しい顔をして話す。
「それだと全員被害者になってるだろ」
「あ」
「なるほど。確かにそれは盲点だったかもしれない」
「盲点だった、じゃない! どうするんだよ!」
バンっと机を叩いて立ち上がる彼の表情は怒りに染まっている。今までに無いほどの激情を見せる彼に、僕は慌てて店内を見渡す。新聞を読んでいた男性が驚いた様子でこちらを見ているのに対し、申し訳ないと頭を下げればおずおずと視線を戻してくれた。ホッと胸を撫で下ろし、僕は探偵少年へと視線を戻す。彼のカップの表面が振動で大きく揺れていた。
「まあまあ。ちょっと落ち着けよ」
「これが落ち着いていられるか!」
「なんでそんなに怒ってるんだ? 彼女たちのサークル内に犯人がいないのがわかっていいじゃないか」
「それだと探偵がいる意味がなくなっちまうだろ!」
(そういうことかよ!)
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