湖面に写る月の環

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「これが、ホウソウシたちの声なんだ」
「ほうそう……?」
「そう」
こくりと頷く彼に、僕は首を傾げた。彼の言う“ホウソウシ”とやらの存在を聞くべきか、それとも聞かない方がいいのか。
(……とはいっても、聞いてもわからないし)
「なるほどな」
「え、わかるのかよ」
「まっ……たくわからん!」
「何で頷いたんだよ」
けろっとしている彼に、僕は呆れに口を零す。どうしてこいつはこういうことばかりするのか。はあっとため息を零し、コーヒーを飲む。恐る恐る提供されたプリンにスプーンを差し込み、口に放り入れる。ぷるぷるとした舌触りとほんのりと甘い味に、強張っていた心が少しだけ緩んでいく。やはり甘味は偉大だな。
「ははっ。まあ、そうなるよね」
「で、その包装紙ってなんだ!」
「ホウソウシ。こっくりの上位互換のような存在で、その人間の言われたくない事を延々と言い続けるんだ」
「は、はあ……」
「しかも、彼自身はちょっとした悪戯をしている気分でいるから厄介なんだよ」
ちゅう秋の説明に、僕たちは気の抜けたような声が零れる。顔を見合わせる僕と探偵少年は、二人してよくわからないと言いたげな顔をしていたのだろう。苦笑いを浮かべるちゅう秋には、僕たちの気持ちは既にバレているようで。
(でもここで聞いとかないと、今後聞ける機会もなさそうだし……)
僕はこくりと喉を鳴らして緊張を飲み込むと、ちゅう秋を見つめる。優雅にコーヒーを飲む彼は、まるで小説やドラマに出てくる俳優のようで。
「……なあ、ちゅう秋。お前、何でそんな事知ってるんだ?」
「……何でって?」
「普通、そういうの知らない人間の方が多いだろ。ホウソウシといい、こっくりの性質といい……なんでそんなにオカルトに詳しいんだ?」
「お前、そういうの好きだったか?」と問いかければ、「嗚呼なんだ、そんなこと」と笑みを浮かべた。余裕そうな彼に、僕は眉を寄せる。どうなんだと視線で問いかければ、くすりと笑みを浮かべられた。相変わらず読み取れない表情をする彼は、コーヒーをカツリとソーサーに置くと、片肘を付いて頬杖を付いた。その仕草はどこか悪役のボスのようにも見える。
「――俺、陰陽師の末裔だからね」
「……はい?」
唐突なカミングアウトに、僕は手を止める。笑みを浮かべる彼に、僕は一瞬先程の言葉が夢なのかと思った。
――陰陽師。よく小説やドラマでも出てくるその存在は、現実では既に廃れた職として認識されている。廃れた結果、神社の神主や寺の住職になっているという話も聞くが、本当のところどうなのかはわかっていない。
(誤魔化されたのか……?)
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