湖面に写る月の環

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黙々とスイーツを食していく探偵少年は、いつの間にかソフトクリームを食べていた。彼はここの店のメニューを制覇するつもりなのだろうか。そんな事を考えていれば、ちゅう秋は手を組んでその上に顎を乗せる。にっこりと笑みを浮かべる彼は、今度こそラスボスの表情をしていた。その表情に何となく嫌な予感を感じ、僕は視線を逸らした。飛び火しないようにひっそりと気配を消すように息を潜める。今のちゅう秋に話しかけるほど、僕は愚かではない。
ちゅう秋は探偵少年をじっと見つめると、いつもと同じ声で問いかけた。
「探偵くんは、過去を見ることが出来るんだよね?」
「ん? まあ、そうだな」
「それは条件付きなのかい?」
「条件?」
首を傾げる探偵少年に、彼は「そう」と頷く。
「例えば“本人を見ていないと見れない”とか、“触れないといけない”とか」
「ああ、なるほど」
ちゅう秋の言葉に、探偵少年は納得したように頷いた。うーむと宙に視線を投げた彼は少し考えると、口に入っているものをこくりと飲み込み、ちゅう秋と向かいあった。……まさかちゅう秋のあの顔を正面から見られる人間がいるとは。
「よく見れるのは、触ってる時だな。握手している時とか」
「“よく見れるのは”?」
「顔を見るだけでもわかるぞ。例えば写真とかでも、頑張ればいける」
スプーンを口に含みながらグッと親指を立てる彼に、僕は突っ込みたくなるのを必死に我慢する。もう諦めているが、一応先輩に対してどういう反応をしているんだ。
(僕たちじゃなきゃ干されてるぞ、本当に)
探偵少年の将来なんか、絶対に心配してやらないけれど。
「ふむ……そっか」
「それがなんだってんだよ?」
「ううん、何でも。ところで、写真よりは実際に会った方がしっかり見えるのかい?」
「あー……まあ、そうかもしれないな」
スっと視線を下げる彼に、疑問を感じたのは僕だけではなかったらしい。新しくケーキを注文する少年を反射で止める。いい加減にしろ。もう五皿目じゃないか。
「かもってどういう事だい?」
「……検証したことないんだよ」
「検証……」
次に俯いたのはちゅう秋の方だった。彼は難しい事を考えるかのように顎に手を当てる。少年は続ける。
「誰にも確認したことがない。気持ち悪いだろ、知らない人間に知られているなんてさ」
「……確かに、いい気はしない人が多いかもしれないね」
「だろ?」
自嘲気味に笑みを浮かべる探偵少年に、僕は複雑な心境が込み上げてくるのを感じる。作られた笑顔を見て、似合わないと思う。
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