ビター・マリッジ

幸人さんの瞳の奥を覗き込むように見つめ返すと、彼が無言で私の顎先を持ち上げた。

ドクンと胸を鳴らした次の瞬間、幸人さんの唇が私の唇に重なる。

広いとはいえ、ここは送迎車の後部座席だ。運転手さんだって、私たちの気配を感じられる距離にいる。

そんな場所で幸人さんが唇を重ねてきたことに驚いた。


「幸人さん、急にどうして……」

「いちおう公言したからな。善処する、と」

ドキドキしながら離れようとすると、幸人さんが私の腰を引き寄せてもう一度唇を塞ぐ。

運転手さんに気付かれているかもしれないと思うと恥ずかしいのに、幸人さんの半ば強引にも思えるキスに抗えなかった。

重なる幸人さんの熱い唇や、優しく腰をなぞる彼の手が、まるで私を「愛してる」と言っているみたいだったから。

もしかしたら私は、ほんの少しは幸人さんの《特別》に近付けているのかもしれない。

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