ビター・マリッジ
Ⅱ.割り切れない感情

平日の幸人さんの朝は早い。

私がまだ眠っているあいだに三十分ほどのウォーキングに出かけ、目覚めた私が朝食を作るあいだにシャワーを済ませる。

私が食卓に朝食を並べる頃には、幸人さんの身なりは既にバッチリと整っていて。黙々と朝食を食べたあとに、タブレットでニュースを見ながらコーヒーを飲む。

それが、幸人さんが毎朝仕事に出かけるまでのルーティンだ。

その間、私たち夫婦のあいだに会話はない。

もちろん、幸人さんが向かいに座ってコーヒーを飲む私に一瞥をくれることもない。

タブレットを注視したまま僅かに眉を寄せる幸人さんをじっと見つめていると、食卓に置いてあった彼のスマホが鳴った。

おそらく、マンションの下に迎えが着いたことを知らせる電話だ。それは、基本的に毎朝同じ時間帯にかかってくる。


「すぐ降りる」

短くそう答えて電話を切った幸人さんが、スーツの上着を羽織る。

仕事用の鞄を手に取って忙しなく出かけて行こうとする幸人さんの姿を目で追っていると、リビングのドアの前で振り向いた彼が、今朝初めて、私のことを視界に入れた。

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