ビター・マリッジ
「幸人さん、今日はまだ……」
パジャマのボタンに指をかける幸人さんを手で制すると、彼が何か考え込むように私をじっと見下ろした。
私だけを捉えて映し出す、幸人さんの黒の瞳。それが何を考えているのか、全くわからない。
いつまでも胸元に置かれたままの幸人さんの手をそっと退けると、ほんの一瞬、彼の眼差しが鋭くなった。
ゾクリとして小さく震えると、幸人さんが私の肩口に顔を寄せて首筋に乱暴に噛みついてくる。
「いっ……」
「月一回のタイミングで以外で触られるのは嫌なのか?」
私が喉の奥で悲鳴をあげたのと、幸人さんの低音が耳元で響いたのとは、ほとんど同時だった。
「ゆ、きと、さん……?」
困惑気味に眉を下げると、幸人さんが私の両手首をつかんで逃げられないようにシーツに押し付ける。
「嫌じゃないなら、やめない」
真上から見下ろしてくる幸人さんの前髪が、私の額にかかる。
私に向けられた幸人さんの瞳からも、囁きかけてくる声からも、恋人を抱くような熱量はまるで感じられない。
それなのに、幸人さんにベッドシーツに押し付けられた今の状況に、私の胸はこれまでで一番くらいに昂っていた。