Re.start
延命処置
裏の会話がバレないように、まるで腹話術師のように口元をあまり動かさぬまま小声で話していた。
二人とも明らかに不自然な動きだから、多分みな私達の異変に気付いているだろう。
「私には彼氏がいるって知ってるでしょ。」
人前で言える事じゃないけど、諦めてもらうにはこの返事が最適だと思った。
すると、蓮は…。
「とりあえず形だけでいいから。」
「…えっ?形だけ?」
突然意味不明な事を言い出した。
でも、よくよく考えたら三年連続イケメンコンテスト優勝者の蓮を、ごくごく一般人の私がここで断ったら、一瞬で全校生徒の標的の的になるかもしれない。
今まで受けていた嫌がらせも倍増するのかな。
それに、去年後夜祭の告白タイムが羨ましいと言っていた事を思い出して、こんなバカげた真似をしたとか。
私達はもう別れているのに、今さらみんなの前で告白とかされても嬉しくないんだけど…。
こんなに胸をドキドキさせてくれるなら、付き合ってた時にやって欲しかったよ。
…でも、よく考えて。
形だけでもYesと返事をしたら、余命が近い蓮の最期の思い出になるかな。
少しでも延命するかな。
いや、どうかな…。
いま頭の中が混乱してるから、何が何だか訳分からなくて、正しい判断が出来なくなっている。
蓮と付き合っていると嘘の周知をすれば、先生との関係を隠し通す事ができるかな。
蓮自身も形だけでもいいって言ってくれてる事だし、提案自体は悪くない。
自分の為。
そして、先生の為。
よし…、決めた!
蓮…、ごめん。
申し訳ないけど、先生との恋愛を続ける為に、この機会を利用させてもらっちゃうね。
そして、先生……。
後でひたすら謝るから、突然無謀な決断を下した私を許してね。
今だけ…。
これは形だけの返事だからね。
どうか、変な誤解だけはしないで欲しい。