Re.start
私は偽善者
結局……。
迷いに迷った挙句、先生に別れ話を切り出す事が出来なかった。
傷付けたくなかった…。
いつも優しく接してくれる先生を。
壊したくなかった…。
穏やかに満ち溢れている笑顔を。
臆病者……?
いや、違う。
私は偽善者。
結局、何だかんだ理由をつけて自分に都合のいいように殻に閉じこもっているだけ。
だから、未だに蓮のファンから嫌がらせを受けるのかもしれない。
デートの帰りはいつものように近所まで送ってもらった。
「じゃあ。」と言って車から降りようとすると、先生は私の手をギュッと強く握った。
すかさず振り返ると、先生は何かを訴えるような目をしている。
「……何か俺に話す事ない?」
「えっ。」
「梓の口から言ってくれるのをずっと待っていたけど……。本当に何もないの?」
「…何の話?」
この時、丸一日先生と別れる事しか考えていなかったから、先生が私の頭の中を見透かしているかと思った。