エリートSPと偽装婚約~守って、甘やかして、閉じこめて~

詩乃side

一緒に朝を迎えるのはもう何度目だろう。
でも、こんなふうにして大人としての朝は初めてだった。
今までと違うのは、互いに服を着ていないことだ。
互いのじっとりとした肌はまだ絡みついている。
とても心地よかった。

(ああ、好きだな……。すごく好き)

突然で驚いたが、とても幸せな一夜だった。
引き締まった体。軽々と抱き上げてくれる逞しい腕に男らしさを感じた。
自分に夢中になってくれている。それが気持ちを高ぶらせた。
思いを寄せる男性に愛されるというのは、なんて幸せなのだろう。

彼ならすべてを捧げてもいい。そう思っていたから、突然男を見せた慧さんも受け入れられた。

唯一切ないのは……

(両思いじゃないってことかな)

幸せから一転、それを考えるとじくじくと胸が痛む。

このまま本当に結婚できたら、どれほど幸せだろう。
ちゃんと時がきたら、さよならをする覚悟をしなくては。この夜の責任を取らせるなど言語道断だ。

だって、慧さんはずっと紳士だった。わたしがキスをしたいと思う夜も、決して手を出して来なかった。

無意識とはいえ、彼を煽ってしまったのはわたしだ。
今までこんな風にならなかったのは、とても理性的な人だからだ。

胸もお腹も、切ない痛みを伴った。

サイドボードに置かれていたアラームが鳴り、慧さんが腕を伸ばしてそれを止めた。

ふたりの間に隙間ができて、冷たい空気がすっと通る。

「ああ、もうこんな時間……」

時計を確認し、慧さんは髪をくしゃくしゃとかきまぜた。

「おいで」

慧さんが腕を広げ、わたしはもう一度そこに飛びこんだ。
温もりが戻ってくる。

「詩乃、体はどう?」

「大丈夫」

「とても可愛かった。俺を受け入れてくれてありがとう。突然でごめんな……」

おでこでチュッとリップ音が鳴る。

「ううん。わたしも望んでいたから……」

これは本音だ。
慧さんは目を細めてうれしそうにした。

「本当はもっと楽しみたいのだけれど、今日は所用もあって……詩乃を自宅まで送って出社すると時間がギリギリなんだ。急がせて申し訳ないんだけれど」

「大丈夫。シャワーだけ浴びていい?」

「ああ、もちろん。それくらいの時間はある」

キスで送り出され、熱いシャワーを浴びた。

「何度見ても素敵なお風呂……やっぱり、夢の世界みたい」

水音に紛れて呟く。

(一生の思い出にしよう)

目頭が熱くなった。
溢れそうな彼への気持ちは、シャワーとともに流すことにする。
この切ない気持ちも、大切にしようと思った。
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